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「塩酸はHCl、水酸化ナトリウムはNaOH、混ぜると塩化ナトリウムNaClになって、これは塩……」
「イオン化傾向は、ナトリウムまでが常温の水に溶けて、銅から先はプロトン酸化されない……」
「メンデレーエフは周期表を発見し、バイヤーとビリガーはケトンと過カルボンさんを……」

「あーもう疲れた! 勉強やめ!!」
「アリサちゃん、早いよ……まだ30分しか経ってないよ。いつユーノ君が来るのか分からないのに」
アリサは、ちょっとだけイライラしていた。
今日は、本当なら『アイツ』がやってくるはずなのだ。
それが、もう30分も過ぎている。一緒に勉強会をしよう、って言ったのに。
向こうが言い出したのだ、『地球での科学を勉強したい』と。

なのに、来ないなんて。まだ来ないなんて。
そりゃ、教科書をぶん投げたくもなる。

「ごめんアリサ、遅れちゃって……」
息せき切ってユーノが駆け込んだのは、約束の時間を45分も過ぎてから。
「バッカじゃないの!? 何分過ぎてると思ってるのよ! 心配したんだからね!!」
「ごめん、ごめん。おみやげを選んでたら、時間を忘れちゃって」
「おみやげ、ですって?」
怪訝な顔をするアリサ。
うん、とユーノが言って差し出したのは、3切れのケーキ。
「これ、アリサがこの前見てたテレビで欲しいって言ってたから……あれ?」
『テレビで』の辺りから、アリサの顔が紅くなってきた。
「そっ、それなら連絡くらい入れなさいよねっ!」
ぷい、と横を向くアリサ。
奪い取るようにしてケーキの箱を持っていくと、それを大事そうに抱えた。
「……と」
「え?」
「ありがと!」

勉強会を始めたはいいものの、ちっとも身が入らないアリサだった。
ユーノに「大丈夫?」と心配してくれるのが嬉しくて、余計に集中できなくなったのは小さな秘密である。


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