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「えいっ!」
「わぷっ……ヴィヴィオ、やりましたね!」
「後ろが甘いよ、アインハルト!」
「いや、あなたは仕事して下さ……きゃっ」

***

週末になって、聖王協会に例外的なドカ雪が降った。
随分と積もりまくり、気がつけばくるぶしまで埋まるくらいになっていた。
朝早くから雪掻きをしていたカリムやシャッハを、ヴィヴィオは労い、ついでにみんなを誘って手伝った。
「ありがとうございます、ヴィヴィオ。それに、みなさんも」
雪は後から後から降り続けていて、さっき作った足跡が消えるまでの時間は、それはもう信じられないスピードだった。
そんな天候でどうしてわざわざ聖王協会に足を運んだのかといえば、
朝に家を出る時は大したこともなかったし、こんな日こそ外で遊ぶものだと、
アインハルトともどもイクスの許へ訪れてみたのだ。
「雪に足を取られる中でのストライクアーツ……燃えますね!」
ヴィヴィオは、ただでさえ呼ぶつもりはなかったシグナムとフェイトのことは、忘れようと心に誓った。

そして着いてみればこれである。
雪は来る間に本降りとなり、晴れていくという予報は大外れ。
そんなに寒くはないけれど、逆にそれで大きく育った牡丹雪が立ちっぱなしの人を瞬く間に雪だるまにしていく。
危なくなったら引き上げると約束して、ヴィヴィオ達は銀色の裏庭へと飛び出していった。
「よーし、まずは雪だるまを作ろう! 一番小さい人は罰ゲームだよ!」
「望むところです」
「ふふふ、楽しみですね」
「よっしゃー、あたしが一番になるよ!」
――なぜかセインも混じっていたが、多分気にしてはいけないんだろう。
一応、本人には「雪掻き」という大義名分があったようだから、それでよしとしたい。
何より、セインはそれなりに仕事をするのだ。何だかんだいいながら。
「ところで……雪だるまって何ですか?」
一番気合いを入れていたイクスヴェリアが最も基本的な質問を始めたので、みんなずっこけた。
改めて雪だるまの作り方を教えて、勝負スタート!

「うんしょ、うんしょ」
手で作った雪玉を地面に置き、ころころ転がしていく。
段々どんどん大きくなっていった雪玉は、いつしかヴィヴィオの下半身くらいになっていた。
「イクスー、アインハルトー、どれくらいでき……ぶふっ」
既にイクスヴェリアは身長分の大きな雪を築き上げ、アインハルトに至っては二階の窓に辿り着かんばかりの勢いだった。
負けじと転がし、雪をぺたぺたつけて巨大にしていく。
そうしている間にも二人はひたすら玉を大きくし続け、ついには聖王協会の屋根にも迫る勢いだった。
「……で、これをどうやって乗せるの?」
セインの冷静な一言で、三人とも我に返った。
意地っ張りが集まって作った雪玉は文字通り山となり、もう手が付けられないほど巨大化していた。
「う、うーん……魔法はあんまり使っちゃダメだよって言われてるし、どうしようかなぁ」
考えている間に、今度こそまともな雪だるまを作った。これなら普通に乗せられる。
高さは、小柄なイクスヴェリアの胸くらい。
木の枝を刺して、まだ残っていた赤い木の実を目にして、台所からもらってきたニンジンの端っこをちょこんと鼻にして、完成!
「この雪山は……うん、かまくらにしよう」
改めて見上げると巨大すぎる。他の活用法を求めた方が明らかにマシだった。
そして……

「わひゃぁっ!」
セインが投げた雪玉が、顔面へヒット。痛くはないが、冷たさが半端ない。
顔についた雪を払い、ヴィヴィオは不適に微笑む。
横を振り向けば、アインハルトも闘争心を露にして、雪玉を握っていた。
「……倒れたら負けだよ」
「望むところです」
「みんなやる気だねえ。イクス陛下は? あれ、イクス陛下?」
セインは辺りをきょろきょろ見回した。でも、あるのは雪だるまが二体だけ……二体?
作っていない雪だるまがあるということは、まさか。
「イクス!? 大丈夫!?」
慌てて駆け寄り、雪の塊を崩す。中から出てきた少女は、洟を垂らしながらガタガタ震えていた。
それだけ雪足が強くなっていたが、まだ何とか外で遊ぶ分にはやっていけそうだ。
「雪玉を投げて遊ぶ……ですか。面白そうですね。身体を動かせば少しは暖まるでしょうし……やります」
カチコチに固くなった関節を動かして、しゃがみつつ雪を拾い上げるイクスヴェリア。
どこか、戦闘心に溢れているのは気のせいだろうか。
「えいっ!」
ふよふよ。投げられた雪玉はへんてこな軌道を描いて当てずっぽうなところに落ちた。
必死になって何個も何個も投げ、ゆっくり歩いているだけのヴィヴィオにようやく当たった時、少女は花火のように喜んだ。
「やった! やりました! さぁ、ヴィヴィオ、勝負です!」
「それじゃ、行くよイクス……えいっ!」
セインも混じって、四人で雪合戦。
雪だらけになって、転んで騒いで、気が付いたら膝まで埋まっていたりして、楽しく過ごした。
後ろからこっそり背中へ雪を入れられた時は、悲鳴を上げて反撃したりした。
いよいよ雪足が強くなって外にいるのが危なくなり、教会の中へ緊急避難。
暖炉で暖まっていると、頭にタンコブを作ったセインがお茶を持ってきてくれた。
「どうしたんですか、それ?」
「いやぁそれがね、『子供達と一緒に遊ぶなんて何事ですか!』ってシスターシャッハに怒られちゃった」
とはいえ、この大雪ではどうしようもないのも事実で、後でシャッハにはセインを許してもらうように言いに行こうと思った。
お茶を一口飲めば、身体がぽかぽかと温かくなる。
隣では、イクスヴェリアがカップをテーブルの上に置いたまま、頭をこっくりこっくりさせていた。
アインハルトも、慣れない場所で慣れない『戦い方』をしたせいなのか、ちょっぴり疲れも見え始めていた。
「はい、チョコレート。甘いものはこういう時に効くよ。ほら、イクス陛下。こんなとこで寝てると風邪引いちゃうよ?」
「ふぁい……」
おねむな少女を立たせて、ゆっくり手を引きながら部屋へ連れて行くセイン。
そういうところを見ていると、何だかんだ言ってしっかり仕事はしているんだなと思うヴィヴィオであった。
「それにしても……こうやって部屋の中から雪の舞っているところを見ているのも幻想的ですね」
「そうだねぇ……暖炉はあったかいし、チョコは美味しいし……セインには今度クッキーを焼いて持ってこようかな」
にゃははと笑ってみると、アインハルトがじとーっと見つめていた。
どうしたものかと聞いてみると、彼女はちょっぴりふくれっ面になってぼそぼそ言った。
「私も……ヴィヴィオのクッキー、食べたいです」
妙に怒ったような、或いは捨てられそうな子犬のような目が、凄く可愛い。
ヴィヴィオはふらふらとアインハルトのところへ歩いて行くと、ぎゅっと抱きしめた。
「ふぇ? ど、どうしたんですかヴィヴィオ?」
「えへへ、何でもない。大好きだよ、アインハルト!」
「……私もです、ヴィヴィオ」

その時、廊下をコツコツ歩く音が聞こえて、二人はバッと離れた。
もじもじしているところにセインが戻ってきて、ヴィヴィオは慌てて手を振った。
「クッキー! うん、今度クッキー作って持って行くから! ね、アインハルト、セイン!」
「え、ええ」
「ん? んんん? チョコのお礼なら気にしなくていいよ? でもありがとね、ヴィヴィオ」
心臓がドキドキしたまま、アインハルトの方を振り向く。
彼女もまた、はにかんだような笑みを浮かべて、ヴィヴィオを見つめていた。

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