ブログ
「はぁ、あれから一年かあ。イクス、早く目が覚めるといいね」
スバルは空を見上げて、溜め息を吐いた。非番の今日は特にやることもなく、クラナガンの公園で欄干に寄りかかっていた。
マリアージュ事件、『ゆりかご』以来最大の人的災害。イクスヴェリアとルネッサ。
聖王教会で長い眠りに就いている少女のことを考えると、時々自分が分からなくなる。
人を助けるために防災局を志望し、夢を叶えたのはいいが、それ以外は暇そのものだった。

冷たい風が海から吹きすさんでいた。屋台で売っていたたこ焼きを頬張って、空を見上げる。
なのは達の世界にある食べ物も、管理外であるにも関わらずこの数年で激増していた。
多分、エースオブエースの名前がここまで影響を与えてきたのだろう。
雲が南に流れ、寒い空気をどんどん運んでくる。今夜は雪かもしれない。公園にいる人々も、今日は随分少なかった。
年末になって、皆が皆慌しく過ごしている。災害の類は絶えることはない。
例によって強制的に取らされた休暇を持て余して、家でゴロゴロしているのも暇で仕方なく、ここまで歩いてきた。
今日は他の友人達も休みではなく、似合わない物思いに耽っていた。
たこ焼きを食べ終ると自販機に向かい、缶コーヒーを買ってぐびりと飲む。
「いつから飲めるようになったんだろう、ブラックコーヒー……」
缶の口を舐めながら、そんなことを考える。
昔は他の女の子と一緒で、甘いモノが大好きだったはずなのに、いつの間にかこういう飲み物も口に入れられるようになっていた。
飲み終った缶をゴミ箱に捨てると、スバルは歩き出した。
機動六課にいた頃は、毎日が激務の連続で休暇といえばティアと遊びに行くのが常だった。
エリオやキャロ、更に他の人達が混じることもしばしば。
つまるところ、スバルは一人きりの時間をどう使えばいいのか、未だによく分からない。
誰に見せるでもないから、疎いとまでは言わなくても服飾の類は折々の季節にしか買わない。
緊急出動があった日にはそれはそれは面倒だというのもあったが。
足が勝手にオフィスへ向かい、人知れず苦笑する。そこに今日、居場所はないのだ。
乾いた笑いが引く頃には、手がコートの襟を握り締めていた。思い直して、自宅へと踵を返す。
テレビをつければ、多少でも気が紛らわせるだろう。
今日は平日であり、昼間から遊んでくれる友達がまったくいないのは大きな痛手だった。
せめて皆と同じ週末へ小刻みに休暇を入れてくれればいいのに。
聖王教会にはさっき行ってきて、そこで眠る少女に近況を伝えた。
仕事のこと、同僚のこと、世界のこと……楽しいことだけを話した。努めて明るく、話した。
「あたしって、こんなにつまんない人だったかなぁ……? やりたいこと、いっぱいあったはずなのに」
誰にも届かせない愚痴を零したところ、端末に連絡が入ってきた。
その主はセイン。今や聖王教会のシスターが何で、と何気なく通信を繋いだ。
「はい、スバルです。どうしたんですか、突然?」
そして直後、スバルはウィングロードをまっすぐ教会の方へと伸ばしていた。
頭の中は、瞬時に親友のことで一杯になる。
緊急事態に陥ったことを受けて、ウィングロードはどこまでも長く、どこまでも速く展開されていった。
「助けて! 爆弾テロなの! イクス陛下が危険なの……お願い、スバル、助けて!」


小説ページへ

inserted by FC2 system