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フェイトがなのはと一緒に帰り道を歩いていた頃、まだシトシト降りの雨が二人の周りに張りついていた。
傘に当たる雨音が心地よい一方で、靴の中にまで染み込んだ水が冷たい。
時々横を走る車が白い水しぶきを上げながらフェイトの横を通り過ぎていく。
清祥大附属小のスクールバスを降りてからたった数軒分の距離が、少女には永遠にも感じられた。
「やっぱり、ユーノもいるの?」
やっぱり、とは宿題を二人でやってその後お茶をする、いつもの流れのことである。
彼がいてダメということはもちろんない。ないが、この二人はちょっと目を離すと一瞬でバカップルモードが開花するのだ。
一度、それで宿題が終りきらなかったことがある。アリサの呆れた顔が何とも印象的だった。
「うん、今日はお休みって言ってたし──きゃぁっ!」
なのはの悲鳴。同時に、背中から右からにかけて感じる異様な冷たさ。
今まさに高町家の門をくぐろうとした瞬間、スピードを出したトラックが二人の横をすり抜けて行ったのだ。
水たまりを踏んだタイヤは思い切り二人の身体に降りかかり、しかもトラックはそのままどこかにいなくなってしまった。
「大丈夫、なのは!?」
「あはは、大丈夫だよ〜……くしゅんっ!」
傘を差していたのに、全身がずぶ濡れ。
くしゃみをし始めたなのはを抱えようとすると、フェイトも体温が急激に奪われて身体を震わせた。
「くちゅんっ! くしゅっ!」
その時、ちょうど二人を迎えに来てくれたらしい桃子が門を開けて、ばたばたと両方を風呂に入れてくれた。
リンディに連絡を入れてもらったが、生憎と外出中なのか電話には出なかったらしい。
「なのはので悪いけど、下着置いておくわね。全部びしょ濡れよ? 洗濯しないと」
「えっ、そんな、別にいいよ!!」
桃子は苦笑しながら「ちょっとだけ我慢してね」と言いながら去っていった。

──別になのはのだから悪いのではない。なのはのは「良すぎる」のだ……

「いい湯だねぇ……気にしなくてもいいんだよ、フェイトちゃん? わたしは気にしないから」
いや違うんです。気にしてることはそんなことじゃないんです。
言いたいことが上手く言えずに、なのはと向い合って湯船にぶくぶくと沈んでいくフェイト。
少しお湯が口の中に入ったが、そこになのはの汗もちょっとは混じっているのかと思うと飲み込まざるを得ない。
やがて身体が温まってきて、逆に許容温度を遥かに超えてきた。
このままだとのぼせる。お風呂となのはの両方に。
「わっ、私、先に上がってるね!!」
なのはの胸は見ないようにして──いや、でも、ちょっとは見た。先端のぽっちとか──、そそくさとフェイトは浴室を後にした。
下着を履く前に、前後左右を確認。軽く匂いを嗅いでから急いで履き、シャツと白い上着を着る。
なのはのスカートは身長差のせいで少しだけ小さかったけど、ギリギリで入った。
でも、そこで限界だった。
「なのはの服……なのはの服なのはの服なのはの服なのはの服なのはの服なのはの服なのはの服なのはの服ぶばっ!!」
吹き出た鼻血がぽたぽたと上着に飛び散り、フェイトは頭から床に倒れ込んで卒倒した。
物音に慌てて脱衣所に入ってきた桃子によれば、その時凄く幸せそうな顔をしていたらしい。
「フェイトちゃん、大丈夫!? なのは、フェイトちゃんが倒れたわよ!」
周りはバタバタしていたようだが、当の本人は幸せ絶頂だった。
下着は、たった今風呂上りだったにも関わらず洗濯しなければならなかった。血とはまた別な意味で。
「あはは……あはははははは……なのは、なのはぁ……」

***

「なのはちゃんもフェイトちゃんも、ホント脇が甘いなあ。ばっちり撮らせて貰ったで? さてこれはいくらになるやろか……」
はやてはニンマリしながら、ずっと張っていた浴室と脱衣所から逃げ出した。
どうやってバレずに済んだのかはベルカ300年の秘密である。
さて、と少女は腰を上げた。これから編集作業が待っているのだ。
当然だがこんなものを市場に流通させる訳にはいかない。
「『クロノ君、恭也さんへ。いつものビデオできました。今回は3万円ってところです』っと。送信!」
趣味に加えて素晴らしい上客ができたものだと、はやてはニヤニヤを隠せずにいるのだった。

(完)

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