ブログ
「なんか今日は蒸し蒸しするね……?」
「そうですね……体力が奪われてしまいます」

ヴィヴィオは自室のテーブルに突っ伏していた。
その横にはアインハルト。デートの約束で家に来てもらったまではいいが、大雨で中止になったのだ。
気温は高め、湿度は最悪。
こんな日々が続く季節を母親の故郷では「梅雨」と呼ぶらしいが、このミッドチルダにはなくて助かった。
ぐでーっと伸びる少女二人。
リビングでは万年新婚夫婦がいちゃいちゃしているから、おちおち部屋も出られない。
すっかり汗をかいたコップが、コースターを濡らしていくのが見えた。
「ヴィヴィオは、今日の映画何を見たかったんですか?」
ちょこんと座ったアインハルトが、バケツをひっくり返したような雨に溜息を吐く。
そのいかにも残念そうな顔に、ヴィヴィオもまた溜め息混じりに答える。
「ん……もちろんアインハルトが見たいのだよ」
「そんな、困ります。私はヴィヴィオの見たい映画をみようとしていたのに」
「えぇー、自主性がないよアインハルト。もっと年上の威厳を見せてよー」
「ヴィヴィオこそ、私の彼女なんですから、もっとわがまま言って下さい」

あーなにやってるんだろこれ絶対バカップルだよねと思いながら、ぐだぐだと部屋の中で過ごす。
本格的にやることもなくなってきたので、つい最近導入されたテレビをつけた。
映像を切り替えて、ゲームモードへ。やるのはパズルだ。
「これで決着をつけよう。勝った方が来週観る映画を選ぶこと。手加減は、もちろんなしだよ」
「分かりました、望むところです」
コントローラーを渡して、これもまたつい最近購入したゲーム機。
少ない資金をリオやコロナと寄せ集めて買ったものだ。
集合場所が毎回ヴィヴィオの家になる関係上、ここに置いてある。
家が少しずつサイバー化されるのは、悪い気はしない。
……が、イクスヴェリアがお子様禁止なゲームを持ってくるのは頂けない。
「あくまでスバルを***する参考資料なんです! ***になって***をするスバルって、とっても可愛いと思いませんか?」
正直、何を言っているのかさっぱりだった。
一つだけ分かったのは、スバルの為を思ってしたことだということ。
但し、方向がずれまくっているのはツッコミなしというやつだろう。
「シャッハに取り上げられた時はこの世の終りかと思ったんですよ!?」と情にほだされたのがいけなかった。
ベッドの下に隠していたのに親の片付け攻撃によりあっさりバレて、机の上へ置かれるという悲劇。
何も言われなかったが、微笑ましい目線が凄まじく痛かった。
弁解すればするほど微笑ましさが増していって、結局はスバルの家へ送ったのだった。
子供向けと紳士淑女向けのゲームを同じハードで出すなんて非常識すぎると嘆いたが、もう遅かった。

気を取り直して。
よくあるタイプの落ち物を起動させ、お互いキャラを選ぶ。
連鎖した時の効果がキャラごとに違うのが、割りとやり込み要素だったりもする。
「難易度はもちろん、最高だよね」
「ええ、それじゃ行きますよ」
こんな時まで本気を出す、それがヴィヴィオとアインハルトである。
開始の合図が鳴り響いた瞬間、二人は物凄い勢いで落ちてきたオブジェクトを積み上げていった。
そして、一分も経つ頃にはファンファーレの嵐。
互いにきっちり決めた連鎖によって、必殺技が発動する。
「ふふっ、アインハルト、持ちこたえられるかな?」
不敵な笑みは、恋人譲り。一定時間、敵側はオブジェクトの種類が増え、こちらは減る。
一方、相手の必殺技はオブジェクトを消すたびにいわゆる邪魔ブロックが溜まっていく。
丁寧に積んでいかないと、あっという間に画面が埋まってしまう、緊迫した一面。
ふと横を見ると、アインハルトが微笑をたたえて振り向いてくれた。
「にゃはは」
「うふふ」
映画のことは忘れて、すっかり勝負にはまり込んでしまった二人。
先に勝ったのはアインハルトだが、その後も一進一退でいつまでもコントローラーを離さなかった。

「ふぅー。さ、アインハルトの勝ちだよ。だから、好きなのを決めてね。
あ、私に譲るとかはなし。私の好きそうなものを選ぶのもなし」
「はい、勝負は勝負ですから」
公開されている一覧を、端末で検索。
近場のと、ちょっと遠くのと二つを見比べて、うんうん唸っている。
何を迷っているのか聞こうとも思ったが、せっかくアインハルトが選んでくれているのだから、
それに委ねようと考えて、何も言わずに待った。
「これにしましょう」
指を差したのは、アンドロイドと人間との間に芽生えた恋を巡る物語だ。今回は続編らしい。
アインハルトはちょっと頬を染めながら、顔を下げて画面のあらすじを見つめている。
襟元から、汗ばんだ少女の甘い匂いがふわりと漂ってくる。
──我慢だよ、ヴィヴィオ。
「わっ、なのは、ヴィヴィオもアインハルトもいるんだよ?」
「大丈夫だよ、あの二人もよろしくやってるから。それよりね、あなた、わたし達もう一週間も帰って寝るだけだったんだよ?
ちょっとだけ……いいよね」
「んっ、んむっ……」
──我慢だよ、ヴィヴィオ。我慢我慢。
リビングから聞こえてきた艶やかな声は、やがて部屋の向こうへと消えていった。
一安心かと思いきや、アインハルトの顔は茹だっていた。
「す、すみません……ヴィヴィオの顔を見ていたら……その……それに、なのはさんとユーノさんが……
つまりこれは、私達でも大丈夫なのではないでしょうか」
何が大丈夫なんだろう。
でも、血は争えない、か。
「じゃあ、ちょっとだけだよ?」

それからお昼になるまで、ずーっとアインハルトに抱きしめられていた。
首筋とか脇とかに鼻を寄せられていたのが、結構くすぐったかった。
その日は、そのまま本を朗読したりして、雨降りの一日はゆっくりと過ぎていった。

小説ページへ

inserted by FC2 system