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「久しぶりの再会だってのに、なんかあっけなかったわね」
腰に手を当て溜め息をつくアリサの仕草は、十年前と何ら変わっていなかった。

なのは、フェイト、はやてが任務として部下たちと共にこの海鳴市に帰ってきたのはつい昨日のこと。
アリサの別荘であるコテージでバーベキューを楽しんだり、みんなで銭湯に行ったりと、
任務と言いながらも、揃って相当ゆっくりしていた。
そして本来の任務が終わると、一泊もせずに足早に帰ってしまったのだ。
現地の協力者として顔を合わせたアリサ、すずか、エイミィ、アルフ、美由希は翠屋に集まっていた。
「でも色々と忙しそうだったから仕方ないよ」
すずかのフォローもまた十年前と同様。
しかし名残惜しかったのはアリサと同じらしく、僅かにしんみりした表情にそれが現われている。
「遠くからでも見守って、帰る場所を守って、時には協力してやれる。それは大事なことだと思うよ」
アルフの言葉にエイミィや美由希が「うんうん」と頷く。
「このメンバーの中で一番見た目が似つかわしくないアンタに言われるとなんか腹立つわ……」
とはいえ、すっかり子供姿が馴染んだアルフのその台詞が自身の経験から来るものであることはアリサも承知済みだった。

「そういえば、不意に気付いたんだけど」
皆が頭上に疑問符を浮かべていると、アリサはすずかを見据える。
「忍さんと恭也さんが結婚したら、すずかはなのはと親戚になるのよね?」
「あ、そういえばそうだね」
「で、エイミィさんとアルフはフェイトの家族だし、はやてにも騎士達がいるし」
テーブルに手を叩きつけ、アリサは勢いよく立ちあがる。
「……なんかあたしだけ除け者みたいじゃない!」
しばしの静寂の後、どっと笑い声が上がった。
「そんなの、前から分かり切ったことじゃんかー」
アルフからの野次が飛び、
「だーかーらーアンタに言われたくないわっ!」
「わーアリサが怒ったー」
見た目相応にはしゃぎながら逃げ回るアルフと、躍起になってそれを追いかけるアリサ。
壁際に追い詰められたアルフは、
「変身魔法、こいぬフォームっ!」
反撃開始。
アルフはアリサの首筋に飛びつき、アリサの頬をぺろぺろ舐め始める。
犬好きのアリサがそれに抵抗できるわけがなく、
「きゃっ、もうアルフ分かった、あたしが悪かったから止めなさいって」
されるがまま、アリサは満面の笑みだった。
「もうお店の中で暴れないでよぅ」
口ではそう言いつつも、美由希も楽しそうにやりとりを眺めていた。

「はーいみんな、ケーキお待たせ」
桃子がお盆いっぱいのケーキと紅茶を持って現れ、一斉に歓声が上がる。
「ね、念のために聞くけど……ここには角砂糖を大量に使う人はいないわよね?」
アリサが恐る恐る問いかけると、全員が全力で首を左右に振る。
特にエイミィとアルフは頭を抱えてガクガクと震えていた。
「なら安心よ……さあ、早く頂きましょう」
「「「いただきまーす!」」」
「そういえば、なのはの教え子、スバルちゃんとティアナちゃんでしたっけ? ケーキ美味しく食べてくれたかしら」
桃子の呟きに、すかさずアリサが応える。
「心配はいらないですよ。それにフェイトとはやてからもこの美味しさをたっぷりと解説されるでしょうし」

***

ミッドチルダ、機動六課。
「なのはさん、ケーキすっごく美味しかったですよー」
スバルとティアは満足げに顔を綻ばせる。
「甘く蕩けるような生クリーム、ふかふかのスポンジ、甘酸っぱいイチゴの織りなすハーモニー、それはもう──」
スバルの半径一メートルはすっかりお花畑と化していた。
「そやろ? なのはちゃんちのケーキは絶品やもんなぁ。私は絶好のチャンスを逃してもうた……」
「向こうに住んでた頃は、よく翠屋に集まってパーティーしてたもんね。また機会はあるよ」
涙を流すはやてとフォローに回るフェイトがそれに続き、なのはも「にゃはは」と微笑んだ。
「十年来の親友か、すごい羨ましいです。あたしとティアもいつかそんな関係に……」
スバルは横目でティアを盗み見る。
ティアは頬を赤く染め、何か言いたそうに口をパクパクさせていた。
「スバルとティアなら、ずっと仲良しでいられると思うよ」
なのはの言葉にティアはすっかり茹で上がり、
「……そんなのこっちから願い下げよっ!」
スバルの頭をゲンコツでぐりぐりしていた。
「でも、やっぱり私も食べたかったな、なのはのケーキ」
フェイトは微妙に勘違いしたままだった。

彼女たちを遠くから見守る親友や家族の想いは、ケーキを通して確かに伝わっていた。

(了)

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