「ダメだよ、僕たち、男同士じゃないか」
「そんなことは関係ない。俺は理樹、『お前』だから好きになったんだ」
「恭介……」
「さあ、俺に任せてくれ」
「う、うん」

***

「やっぱり美しいですね」
美魚は中庭の片隅で傘を傾け、妄想に耽っていた。
膝元には詩集。外から見ている限りは深窓の令嬢なのだが……
「西園さん、何を読んでいるのですか?」

クドが美魚の元に寄ってきた。
「何を……ですか?」
美魚は答えた。
「少年の心、ですよ」

クドは首を傾げっぱなしだった。
「男の子の心、ですかー?」
「はい。時に美しく、時に耽美な姿には、没頭さえしてしまうものがあります」

目をキラキラさせている美魚。
もうそこには、理樹と恭介しか映っていなかった。
「あぅ、美魚さんが現実に帰ってこないです……」
目の前で手をヒラヒラと振る。
返事がない、ただの屍のようだ。

「あ、来ヶ谷さん!」
ちょうど通りがかった唯湖に、クドが助けを求める。
「美魚さんが、美魚さんが何をしても返事がないんです」
「……何?」
唯湖の声が怪訝になり、クドに連れられるまま美魚の元へと歩いていく。
美魚を目の前にした唯湖は目の前でぱちんと手を叩いてみたり、ヒラヒラさせてみたり、
「私は救急隊員だ。西園美魚さん、意識はありますか」
消防の真似をしてみたり。でも全部効果はなかった。
「それならば」

ぺろ、とスカートをまくり、ショーツを露にする。
クドは顔を真っ赤にしたが、肝心の美魚本人は反応なしだった。
「これは厳しいな……ん?」
唯湖が突然閃いた。
そして、口元が次第にニヤけていく。
「クドリャフカ君」
「はい」
パッと唯湖はクドに向き直って、校舎裏を指差した。
「どうやら作戦会議をしなければいけないようだ。ちょっとあそこの茂みへ……」
「わふっ!? どうしてそんなところにいかなければいけないのですか?」
「君に拒否権はないハイかイエスかどっちかだ分かったか」
「は、はいぃ!?」

そしてその後、クドがどうなったのか誰も知らない。

***

「……はっ」
美魚が妄想から帰還すると、既に辺りは暗かった。

(完)



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