ブログ
──あなたのためになら、どんな時だって笑顔になれるよ。でも、どうしてだろう。凄く寂しいんだ──

フェイトの一日は、義兄であるクロノを起こすところから始まる。
「お兄ちゃん、朝だよ。お兄ちゃん!」
揺さぶり、胸をバンバン叩いても、目を覚ます気配がない。そうこうしているうちに、あっという間に五分が経過してしまった。
「後五分」の言い訳はこれで使えなくなった訳だが、どっちにしても起きてくれないと困る。
「……ん?」
ふと気付くと、クロノの前髪に小さな埃がついているのを見つけた。
それを取ろうと手を伸ばしたが、どうも摘んでいる場所が悪いらしく、何度やっても取れなかった。
隣の髪の毛を掴んでは収穫なし、良くあるパターンだ。仕方なくフェイトは顔をぐいと近づけて慎重に埃を取ろうとした。
「取れた!」
その瞬間、クロノが目を覚ました。半分が習慣、半分が寝ぼけなまこに起き上がろうとして、フェイトに頭を近づけてきて、
「いたっ!……ふぇ、お兄ちゃん酷いよ」
ガチンと小気味いい音を立ててフェイトと額をぶつけ合ったのだった。
ハッと目覚め、事態を悟った義兄は、しきりに謝ると大慌てで部屋を出て行った。
ここが自分の部屋であることを半分忘れている辺り、まだ寝ぼけているに違いない。
ともかく、ミッションは成功したのである。フェイトはぱたぱたとスリッパを鳴らして、居間に向かった。
朝食の場はいつも通りに進んだ。からかっているのか甲斐甲斐しいのか、エイミィがクロノに世話を焼いている。
口の端に付いたご飯粒を唇で取っては、真っ赤になったクロノを茶化しては遊んでいる。
本当に、長年連れ添った仲間だからの悪戯なのか、それとも愛情表現なのか、分からない。
一方のリンディは全ての料理に砂糖をぶち込みたがる癖があるらしい。
お陰さまで料理担当はエイミィ、フェイト、アルフとで交代だ。
それにしても、この国には「健康診断」とか「人間ドック」なる制度があると聞いたから、後で連れて行こうと思うフェイトなのだった。
「それじゃ、行ってきまーす」
フェイトは学校へ、クロノとエイミィは管理局へ。リンディは設備一般が自宅に搬入されているので書斎で仕事だ。
手を振って家を出たフェイトが最初にすることは、高町家の門を叩くこと。
すると、寝過ごしたなのはがばたばたとユーノに鞄を渡されたりする場面に出くわしたりするのだ。
「そ、そ、それじゃ、行ってきます!……あ、その前に」
フェイトの目の前で、なのはとユーノがキスをする。頬にではない、朝っぱらから唇にだ。
この二人、しばらく前から付き合っている。
この海鳴でジュエルシード、闇の書、他にも様々な事件を経て、絆がよほど深まったと見える。
誰かのように唖然ともせず、誰かのように嫉妬もせず、また誰かのようにニヤニヤもせず、
どこまでも二人を微笑ましい目で見続けていた。
それに気付いた二人がパッと離れてもじもじし、そしてフェイトに言うのだ。「行こっか」と。
「うん。今日もなのは、アツアツだね」
からかいでも何でもなく、客観的なことを話す。でも、それだけでなのはは真っ赤になるのだ。
赤くなる順番が違うんじゃないかと思いつつ、そこはツッコミを入れないのがフェイト。
ユーノに見送られながら、なのはとフェイトは学校に出かけた。

夏休みも終ったが、残暑はまだまだ厳しい。ちょっと気を抜くと気温はすぐに三十度を超え、
クーラーどころか保健室の世話になる人間がいるくらいだ。
担任の先生はそのことについてよくよく注意し、日直に学級日誌を渡して、授業の準備をするために教室に戻っていった。
「あっついなー、ホンマ。やっぱり私はなのはちゃんが原因やと思うんやけど、どや?」
アリサがうんうんと腕組みをしながら全力で同意する。
「どういうことかな?」となのはが何でもない顔で聞くと、はやては拳を握りながら叫んだ。
「そりゃ、なのはちゃんとユーノ君がいちゃいちゃしてるからに決まっとるやないかー!」
血の涙を流しながら、はやてが慟哭する。どうも、こうなった時のノリはフェイトには苦手だった。
だって、どうやって反応すれば良いか分からないから。
「なのはちゃんにはユーノ君がおる。フェイトちゃんにはクロノ君がおる。アリサちゃんにはすずかちゃんや!
どうして私だけ独り身やねん、私だって男の子といちゃいちゃしたいわボケー!
ええいいっそこの際女の子でもええわ、いちゃいちゃさせてなー!……いた」
アリサにチョップを喰らうはやて。「そんな盛ってるおサルさんだから彼氏とかできないのよ。
少しは黙ってなさい」とアリサは言うが、その頬が僅かに紅潮している。
「アリサとすずか」という組み合わせに、何か思い出すことがあったらしい。すずかはのほほんとアリサを眺めていた。
はやてほど露骨ではないが、すずかだってこの微笑みは「ニヤニヤ」とやっていることは大して変わらない。と思う。
「でも、実際私たち仲良いし。ね?」
きゅ、とすずかがアリサの腕を握る。たまの冗談をさせたらすずかはいつもこうだ。
アリサは真っ赤になって「やめなさい、やめろ!」と叫びながらすずかの手を振り解いていた。
相変わらずのほほんとした笑顔のすずかに、アリサは「もう、知らないっ」とぷりぷり怒って自分の席へ戻ってしまった。
すっかりノロケ会場となり、自爆して更なる慟哭を上げるはやてを、フェイトはいつまでも慰めていたのだった。


次へ   前へ   小説ページへ

inserted by FC2 system