「この管理局には何種類かの派閥がある。三提督が最高の発言力があって、この派閥が最大や。次に多いのが、警備国家制を主張する派閥──管理世界側から申請がない限り、如何なる支援や派遣も行わないっちゅう、ある意味一番スリムなやり方や。でもこれは二十二年前の闇の書事件以来、鳴りを潜めとる。どこかの次元世界で何かが起きて、それを管理局が取りまとめへんと、別な世界に飛び火して結局皆が迷惑することが分かったからや。
 それから、武装派──威嚇、或いはそれ以上の目的を持って質量兵器や禁止されとるテクノロジーを使うて、この世界を脅かす存在に牽制をかけようという考え方。私の世界でも、パワーバランスがどうとかで未だに核兵器を手放したがらん国家が沢山ある。だけど、結局のところ『自分の言い分を通すため』にしかそういうもんは用意してへんのや。尤も、これはこれでバランスが取れとるから、ある意味でええと言えば、もしかしたらええのかも知れへんんのやけど……ま、持ってない国は御愁傷様、って考えを国家のトップが持っとる世界やから、そこら辺は議論の余地があると思うけどな。

 それで、『管理局の言い分を通すため』ってのは、どこともバランスが取れへん。ココ一箇所が神様で、他の言うことを弾圧することに繋がる。だから武装派は新暦以来ずっと、過激派として見向きもされへんかったし、世論に深く浸透させることもできんかった。だけど、スカリエッティの件で話は変わった。高町戦技教導官も私も非魔法世界出身で、そんな人物が中心となって作られた起動六課が事件を解決した。これは一部の人間にとってあんまり気持ちの良い事態ではなくってしもうた。『魔法世界の武装隊員がDやCクラスで、そうでない世界の奴がAAA+なのはどういう了見だ』って──ここからは完全に推論や。嘘でも堪忍してな。
 せやから、個々人の能力には関係ない、ボタン一つで全てが済むようなやり方に切り替えた方が、時空管理局としてのメンツが保てる。そういう風に考えたんやろね。

 現在は参考人程度に収まっとるけど、武装派の筆頭、メイベル・サッチャー大提督。公安部に所属している、いわばお偉いさんの一人や。彼女や彼女の部下が何らかの形でこの事件に関わっている可能性がある。だけど、スカリエッティ事件があったとはいえ、局内におる賛同者は過半数になんてとても足りないし、彼女と同じ理論を唱え、かつ実践できる魔道師もまた、そんなに多くない。かといって彼らの過激性から考えて、管理局が公式に捉えていない次元世界の魔道師をホイホイ連れてくる訳にもいかへん。そこで考えたのが、局内のスカウト、つまり賄賂……でなければ、ひっ捕らえて洗脳、ってところやろか。実は、テスタロッサ執務官以外にも、B+からA+クラスの武装局員や民間の人間が何人か行方不明になっとる。ただ、行方不明になったというだけで、オールドミラーと関係があるかどうかは全く分からへんけど。もちろんこれらは全て事故として処理されたから、テスタロッサ執務官や私らが知ることはなかった。アコース査察官のおかげやな。

 状況だけを見るなら、いくつか疑わしいところがある。メイベル大提督管轄の無人連絡艇が一隻、どこかへ消えてしまっとるんや。何らかの際に人を乗せられるように作ってあるから、もし誰かが交戦中に消息を絶ったとして、現場付近のどこにもいない理由が説明できる。本人は紛失届を出しとるから名実共に『ない』んやけど……そもそも失くした場況が、失くすような戦闘状態にあるとか、燃料が切れて墜落したとか、そういうことがさっぱり有り得へんらしかったんよ。
 二つめが、最近大提督周りの人物が不審な行動を起こしとる。やたらと高クラス魔道師の素性やシフト表を漁ったり、転属予定者のリストを、それも自分らのところに関係のないところばかり取り寄せたり。これらは大提督の権限下から、まったくもって合法的な手続きの下に行われとるから、文句を言うことなんて本来ならあらへんけど、やっぱりおかしい。怪しい。普段やらないことを急にやりだすのは、大抵の場合で失敗することか、でなければよほどの大事かのどっちや。今回は、後者の可能性が少しばかり高い。それがなんなのか、単なる優秀な人材が欲しいのか、それとも思想的な賛同者が欲しいのか、或いはその両方を満たせるように後者を歪曲するか──考えすぎや、ただの偶然や言われたら、それはそうなんやけど。
 最後に、彼らが直接的に関わっている可能性が高いものが、私が今いる遺失物管理部の仕事や。どうやら、ロストロギアに関する資料も大量に引き抜いていたらしくてな。まぁこれだけ見たらスカリエッティ事件を省みて、他に危険な古代遺物を使おうと企んでる連中を洗いざらい見つけ出そう、っちゅう全うな理由ももちろんある。でも、彼らがココと無限書庫から持って行ったのが、なんと『ロストロギアの構成技術』に関する高度な魔道書やった。建前の上では『危険なロストロギアが、しかも改造された時の対処について勘案する』という形やった──それは確かに、闇の書事件に関してはそうやったけど。でもタイミングとしてはこれほどピッタリ一致するというのも不自然な話や。だって、闇の書事件に関する調査やったら、何で十年前にやらんかったんか、って話しやからな。

 以上の状況証拠から、メイベル大提督が水面下での容疑者筆頭や。でも、全員これだけは忘れないで欲しい。『全ては仮定』や。絶対に凝り固まってかかったらあかん。『例えば』に『例えば』を重ねて作ったんやから、文字通り全てが与太話、ってことも十分以上に有り得る。特にエリオ、親代わりのテスタロッサ執務官が心配なんは分かる、痛いくらい分かるけど、図り間違っても大提督の下に直訴なんて行くんやないで。最悪本当に彼女が犯人だったとして、消されるで、この世界から永遠に。彼女は少なくとも政治的な影響力が大きい。下手な証拠を突きつけても、揉み消されるのがオチや。今は誰が容疑者なのかも分からん。その候補すら正式には確定していない、ってのが事実や。だから、今は耐えてちょうだい。私らだって、何も好き好んで犯人を野放しにしてるんやないんやから……」

 言い終ると、はやては長く大きな溜息を吐いた。もう、生きている間に言いたいことを全て言い尽くしてしまった感じだ。だがそんな訳はない。容疑者が何人か浮上し、それを突き詰めていくという「本番」は、まだ始まってもいないのだ。現状、外部犯か内部犯かも分からない。今はただ、地道な捜査をしつつ、時期を待つだけだ。
「はやて、言うとは思ってたけど、そこまでバカスカとスッパ抜かれるとやっぱり守秘義務を持つ身としては……ねぇ」
 アコースが呆れたように肩をすくめる。
「はは、ごめんな。でも現在進行形の機密事項は、知らされてへんからそもそも何も言うことはできへんよ? それに」
「それに?」
 はやては、ウィンクを返した。
「六課の間に、秘密はなしよ」


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