「かんぱーい!」
 旧機動六課のメンバーが久しぶりに全員集まって休暇を取れたのも、人情人事と名高い時空管理局ならではこその喜劇だった。
 はやて主催の再会パーティーには、機動六課でない者も幾人か出席していた。
「いやー、それにしても皆久しぶりやね。今日は私のおごりやから、沢山食べて飲んでってな」
 なのは、フェイト、はやての三人は、もうアルコール。フォワードだった四人はジュース。他の面々も、それぞれに好きな飲み物をグラスに注いで談笑していた。
「ユーノ君も、クロノ君も久しぶり。特にユーノ君なんか、しばらく見ないうちに随分と背が伸びたなあ」
 既に自分より高くなった古馴染みの頭を撫でるはやて。ユーノはそれを振り払うこともできず、ただジュースの入ったコップを呷った。
「おー、ええ飲みっぷりやね。なら私も」
 そう言って一気飲みしたのは、大ジョッキになみなみと注がれたビールだった。ゴクゴクと喉を鳴らして飲み干すと、テーブル近くのシグナムへジョッキを突き出した。
「おかわり、もらえる?」
 なのはもフェイトも、開いた口が塞がらないようだった。何しろ管理局にいた頃は誰しも酒とは無縁の生活を送っていたのだ。
「はやては家に帰ってくると、いっつもあの調子でガブガブ呑んでるぜ?」
 ヴィータが横から口を出す。はぁ、とため息を吐いている間に、はやてはまた一杯、空にした。
「アルコールの一滴は血の一滴なんやで。ちゃんと身体の中に収めんと、明日の元気が出えへんよ?」
 まだまだ行けるとばかりに、次から次へと飲んでいくはやて。なのはなどは苦笑いを隠せなかったが、エリオやキャロの目線は熱かった。
 『いいか、大人になっても無茶な飲み方はしたらあかんよ』と言い聞かせると──ティアナは「自分に言い聞かせて下さい」と小声で言っていたが、どうやら聞こえていなかったようだ──、二人の肩を叩いてグリフィス・シャーリーの方へと向かっていった。
「フェイトさん、お久しぶりです」
 声を揃えて、元ライトニング分隊の二人が挨拶する。
「うわぁ、二人とも大きくなったね、エリオ、キャロ」
 数ヶ月会わなかっただけの少年と少女は、それだけでもう何センチも背丈が伸びていた。このままだとエリオがフェイトを追い抜くのも、時間の問題だろう。
「お久しぶり、二人とも。向こうでも元気にしてた?」
「はい。フェイトさんも、お元気そうで何よりです」
 キャロもエリオも、フェイトが思っていたよりずっと成長していた。二人が配属した辺境自然保護隊は、キャロの前任地だっただけあって知識も技術もキャロが上で、一転エリオにあれこれ教える立場になっていた。しかもそれが上手く働いたようで、フェイトは二人が友達以上に仲良くなっていることを嬉しく思った。
「『保護隊』ではちゃんとやってる?」
 聞いてみると、こっちまで楽しくなってきそうなほど明るい声で、自分たちの居場所について熱く説明してくれた。
 あちこちの世界に出向いて新生物の調査・登録をすること。希少な生物を分類して保護リストを作成すること──デスクワークの研修が役に立ったと、二人が嬉しそうに話していた──。在来種を脅かす外来種の輸出入に規制をかける(ように上層部へ申請する)こと。そして、リストに載っている生物を不法にハントしようとする密猟者たちを取り締まること。
 自分たちの庭にもなっている保護地域の話に移ると、キャロは話が止まらなくなった。あんまり矢継ぎ早に話すものだから、エリオに窘められるほどだった。
「二人とも、楽しそうだね。好きな人と一緒にいられて」
 フェイトのコメントは、そんな二人を噴火させるのに十分すぎる威力だった。
「そ、そんなぼくたちはただいっしょのばしょでしごとをしてるとなにかとつごうがいいというかなんというかとにかくそういうことは……」
「ふふっ」
 エリオの慌てっぷりを見て、逆にキャロは冷静になったらしく、しきりにエリオの肩を叩いていた。
「もうっ、フェイトさん、エリオくんとわたしはまだそんなんじゃないです!」
「へぇ、『まだ』なんだ」
「……あ」
 墓穴。瞬時にキャロの顔は耳まで真っ赤になり、そのまま俯いてしまった。
「でも、二人とも元気で安心した。私が分隊長だった頃はちゃんと二人のこと見てあげられたんだけど。ご飯はしっかり食べてる? あんまり夜更かししたらダメだよ?」
 ついでに、エリオが着けてきたネクタイを直す。
「フェイトちゃん、それは流石に親バカすぎだよ」
 なのはが冷静に突っ込みを入れる。二人とも既に一端の社会人なのだから、当然といえば当然だった。既に二人ともフェイトの庇護下を離れ、それぞれに自活している。
 そこへ、スバルとティアナがやってきた。二人はフェイトへ会釈すると、同期四人同士で近況を語り合い始めた。
「みんな、ホントいい子ばっかりやね。誰もケガしたりせぇへんとええけど」
「はやて、それはちょっと不吉だよ」
「あはは。でもま、あの四人なら大丈夫やろ。むしろ指揮官のあたしの方が心配や。腕、鈍ってへんやろか」
 そんなこんなで楽しく宴の時間は過ぎていった。

 これから起きる事件は、今は未だ欠片さえ見えなかった。


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