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「で、どうなのよ」
「えっ?」

キャロがルーテシアに唐突すぎる質問を受けたのは、
今後の相談だかで彼女と母親のメガーヌがミッドチルダ本局に来ていた時のことだった。
エリオとは今は別れて行動している。というのも、業務報告の代表としてキャロが派遣されたからで、
彼は密猟者の取り締まりでミラやタントと一緒に容疑者を追っているはずだ。

そんな訳で向かい合った女の子ふたり。
キッと厳しい目線を投げかけてくるルーテシアではあったが、キャロにその理由は見当たらなかった。
何か悪いことをした記憶はまったくない。
それに、『どうなのよ』と突然聞かれても主語すら分からないのだ。
「どう、って何が?」
もっともな疑問を口にすると、彼女ははぁと溜め息。
何だろう、何か大事なことを忘れているのだろうか?
「……あのね、私がキャロに聞くことなんて、エリオとは上手くいってるかどうかに決まってるじゃない」

ああ、と納得した。
要は、エリオとケンカしたりしていないか、それが心配なのだ。
「うん、大丈夫だよ。今まで通り、一緒にお仕事してるから。ルーちゃんは心配性だね?」
微笑みながらそう言ったのだが、一方のルーテシアはまた溜め息を増やした。
その仕草に、ドキリと心臓が跳ねる。
今の言葉には、ちょっとどころじゃないくらい情報が足りないのだ。
「私がそんなことを聞くと思ってた? 大体キャロ、あなたは顔に出るタイプよ?
こんなことを聞く理由も、キャロなら分かるわよね」
憂いが顔に出ているのもバレたらしく、慌てて目を背ける。
意味もなくドキドキが激しくなってきて、頭の中が真っ白になる。
ツカツカと歩み寄ってきて、耳元で囁かれる。
それはもう、ありえないほど耳にすんなり入り込んできて、そのまま頭にまで駆け抜ける。
「じゃあもうちょっと直接的に聞くわ、キャロはエリオが『好き』なのかしら?」
「そ、それは、その……」

もちろん、答えは『好き』だ。それ以外にある訳がない。
初めて会ったのは劇的だったけど、その後ライトニング分隊として訓練を積み続けた日も、
その後辺境自然保護隊に配属されて共に成長し、仕事をしてきた日々も、エリオと一緒に過ごす日がつまらなかったことはなかった。
彼はいつだって優しかったし、時には勇気ある行動を取って守ってもくれた──自分が傷つくことさえも恐れずに、だ。
年齢のせいもあって、キャロは知らず知らずのうちにエリオに惹かれていた。
でも、彼の周りには魅力的な女性が大勢だ。
からかい混じりとはいえ、スバルやティアとお風呂に入ったこともある。
母とも姉ともとれない間柄のフェイトにだって、大恩では済まされないくらいの愛情を感じたはずだ。
今となっては友達となったルーテシアだって……
「今、私のこと考えたでしょ?」
「えっ!?」
またしても心を読まれた。ずずいと背中をのけぞるまで迫られ、同い年のはずの少女に睨まれる。
でもそれは脅しているのではなく、心配してくれているからこその視線だということが分かっているから、
なおのこと逃げ出すことができなかった。
「そんなこと、ないよ……それに、エリオ君とはただの友達で……」
しどろもどろになりながらそう喋ったが、ルーテシアの顔はどう見ても納得していなかった。
やっと顔を離してくれてホッと一息、「ルーちゃんはどうなの──」と聞こうとした瞬間、彼女の姿は消えてきた。

ぺろ。

「わひゃぅぁあぅぁーっ!」
首筋に生暖かい感触。死角にいられるせいで表情は見えないが、なんだか相当怒っているみたいだった。
「この味は! ……ウソをついてる『味』ね……キャロ・ル・ルシエ!」   イラスト提供:はっかい。さん
喉近くまで舐められて、足先から力が抜けるようだ。
舌先でつつかれて背筋にクる衝撃に飛び上がり、ルーテシアの身体を引き剥がす。
「も、もう、何するの!」
首筋を摩りながらぷくっと膨れていると、もっともなことを言われた。
「キャロがウソ吐くからじゃない」
「ウソじゃないもん! まだ告白してないだけだもん!! ……あ」
ルーテシアがこれ以上ないニヤニヤを浮かべてうんうん頷いている。
やられた。
「うぅ……エリオ君は『好き』だけど、なんて言うんだろう、エリオ君にその気がないっていうか、いつまでも進展しないっていうか……」
指をもじもじさせながら俯きがちに自白すると、ルーテシアは「キャロ」と呼びかけた。
頭を上げると、いきなりデコピンの一撃。
「うぅ、痛いよぉ……」
「キャロがいつまでも一歩を踏み出さないからでしょ。エリオが鈍感なのは今に始まったことじゃないんだから、
自分から積極的に誘いなさいよ。……デートとか」
何だか最後の一言が妙に詰まった気がしたが、それは気にしないことにした。
『自分から積極的に』、何となく、気のあった相棒──仕事仲間、そして家族的な関係を築いてきたから、
多分エリオにはキャロを何とも思っていないかもしれない。
だから、その「一歩」が踏み出せずにいた。
キャロの淡い思いを伝えるには、きっと言葉で言わなければならないだろう。
だって、エリオは誰にでも優しくて、だからこそ自分が『好き』だという気持ちを、はっきりと言わなければいけない。
「ありがとう、ルーちゃん。頑張ってみるよ」
そろそろ時間だ。少女に手を振って、キャロは歩き出す。
道すがら、キャロはルーテシアに言われたことを何度も反芻する。
積極的に──まずは、今日エリオのところに帰ったらご飯でも作ってみよう。
告白は……
「まだダメぇ!」
脳内の言葉が思わず出てしまい、局中の人々が振り向いた。
キャロは顔を真っ赤にしてその場を立ち去り、報告書を提出しに行った。

***

一方。
「まったく、私がいなきゃ二人はくっつきもしないのかしら」
ぶつぶつ言いながらの帰り道、アギトに偶然会った。
「二人って誰のことだ?」なんて聞いてくるので、さっきの一幕を軽く話すと、今度はアギトが顔を青くした。
「ルールー……まさかキャロの方が好きだったなんて」
「や、違うアギト! 私はただキャロを勇気づけようと」
慌てて両手を振りながら叫ぶと、アギトはさっきの自分と似たようなニマニマ笑いになって、
今度はもっと核心を突く質問を聞いてきた。
「ふぅん……で、ルールーはどっちが好きなの?」
「アギトに言ってどうなるっていうの!」
「やっぱエリオか……」
顔をキャロ以上に首まで赤くして、アギトの身体をむんずと掴もうとする。
シュルリとその手から抜けだしたユニゾンデバイスは、子供っぽい笑いを響かせながら飛んでいった。
「こら、待ちなさい!」
「いーやだー!」

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