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「ヴィヴィオ、起きて下さい」
「ふみゅ……」
朝早く、ヴィヴィオはアインハルトに起こされていた。甘く眠りに誘う声が心地いい……じゃなくて。
のそのそとベッドから起き出して、「ご飯だよ!」と自分を呼ぶなのはの声に答え、しかしやはりのそのそジャージを履く。
隣でアインハルトがきゃーきゃー叫んでいたが、どうやらぱんつを見せつけながら着替えているも同然の格好だった。
寝呆けた頭はその程度のハプニングには全然動じず、「いってきます〜」と間延びした返事でクリスを引きずって家を出た。
物言わぬデバイスはばたばたしながら、主人の目が覚めてくれるように健気な努力を続けていた。
「クリス、うるさいよ〜」
ぽかりと叩くと、健気なウサギは遂に諦めたらしくくたりと首を下げたのだった。
「ありがとう、アインハルト〜」
ぽやぽやした目で少女に手を振り、家を出発するヴィヴィオ。走っているうちに頭が冴えてくると、
今度はジャージの下を後ろ前に履いていることに気付き、結構スピードを上げて走った。
「今日は早めに切り上げようかな……! その代りパワーを使う方向で!」
アインハルト──恋人に会うためなら、自分の事情は抜きにしたっていくらでも速く走れた。

ジョギングはいつもよりちょっぴり短めに、家に戻ってきた。
アインハルトが「おかえりなさい」と言って差し出してくれたタオルで軽く汗を拭き、そのまま風呂場に向かう。
何だかシャワーを浴びている間に脱衣所でアインハルトが何かをしているようだったが、もう気にしないことにした。
「あぁ、ヴィヴィオ、ヴィヴィオ……んくぅっ!」
類は友を呼ぶという。
なのはがユーノのシャツをくんかくんかしているのはもはや我が家の常識であるし――但し本人は気付いていないようだったが――、
血の繋がっていないヴィヴィオ自身も、性的な意味を除いたとしても、いろんな人、いろんな物の『匂い』が大好きだった。

性的な方? 言わせないで恥ずかしい。

ちなみに、すぐ風呂に入ると分かっていながらアインハルトがタオルを出してくれた理由は言わずもがなである。
ああ、本当に類は友を呼ぶ!
「はい、ヴィヴィオ。あーん」
そしてそれは、食卓に着いてからも一切変わらなかった。サラダのフォークを差し出しているのは紛れもなくアインハルト。
両親の、冗談とも本気ともつかぬ『あーん』ではない。恋人がやる、正真正銘全力全開の『あーん』だった。それはつまり。
「いや、アインハルト、そんなことしなくていいから」
今やバカップルに限りなく近いデレデレである。最初の気丈さと格好良さはどこへやら。
どこからどう見ても確実になのはとユーノから凄まじい影響を受けていることは想像するまでもなかった。
いくつかの出来事と、いくつもの事件を通して、自然に惹かれ合った、『元』王の二人。
最初の出会いこそ運命的ではあったものの、そこからの触れ合いは『ヴィヴィオ』とアインハルトのものだった。
アインハルトが「イングヴァルト」としての呪縛を解き放った事件からこちら、アインハルトは本物の笑顔を見せてくれるようになった。
一番大切な人(ファースト・プライオリティ)を得てから、二人は何度も身体を重ねたりもした。
そしてその結果。
「し、仕方ないなあ……あーん」
こんなにもアインハルトはヴィヴィオを想ってくれているのだ、そう考えると、悪い気もしない。
ほんのり機嫌が悪いふりをして、押したり引いたりしてみる。
「もう、アインハルトだけなんだからね、こんなことするの……」
実際凄く恥ずかしい。やってみれば分かる。
サラダをもぐもぐしている間、繊維ばかりが口の中でシャキシャキ踊って味なんかまったくしなかった。
ごくんと飲み込むと、また次の「あーん」攻撃。誰か助けて。
「ねねね、あなた、ヴィヴィオまた可愛くなったんじゃない? 恋は女の子をキレイにするっていうけど、ホントみたいだね」
「ヴィヴィオが結婚するのが楽しみだね……アインハルトなら大丈夫そうだし、僕も許可しようかな」
こらこら聞こえてるぞ。結婚って一体いつの話だ。
横を見ると、腰をくねらせながら恥ずかしがりまくってるアインハルトがいた。
「そ、そんな……結婚なんてまだ早いです。あぁ、でもヴィヴィオと結婚……うふふ、うふふあはは」
最近気づいたけど、この娘には少々妄想癖があるらしい。バラ色なのかピンク色なのかは本人のみぞ知るところだが。
「あれ、二人ともそろそろ学校じゃない?」
残念ながらヴィヴィオには、真昼間からいちゃいちゃするスキルに恵まれなかったようである。
好意を持たれるのはいいとして、それと「恥ずかしい」のは別である。
ラッキー、何とか逃げ出せる! ともくろんだのも束の間、いつの間にやら食事を終らせていたアインハルトが、そっと腕を絡めてきた。
「さ、行きましょう、ヴィヴィオ?」
「は、はいぃ……」

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