「理樹く〜ん」
夜の女子寮で、なまめかしい声が聞こえる。
湿った喉から絞り出される声は、双子の片割れ。

少女は、部屋にひとり。
しばらく枕を抱いてもぞもぞとベッドの中でうごめいていると、やがてむっくりと起き上がった。

「理樹くん、もう我慢できないよ〜」

よろよろとした足取りで女子寮を抜け出し、男子寮の方へと向かう、長髪の少女。
月明かりの下で彼女はあまりにも儚げで、その日窓から外を見た生徒たちの間で、幽霊騒ぎが起きた。

理樹と真人の部屋は、なぜか鍵が開いていた。
真人がかけ忘れたのだろうか。
少女は大して気にも留めず、好きな人のベッドへと向かう。

「すぅ……すぅ……」
少年はあどけない顔で、すっかり寝入っている。
その姿はあまりにも無防備で、このままお持ち帰りしたいくらいだ。

「大好き、理樹くん」
少女は理樹にちゅ、と唇を寄せる。
そのままベッドにもぐりこんで、少年の身体を抱いた。
「あったか〜い。理樹くん、理樹くん、理樹くん……」
胸元に鼻を近づけて、その匂いをいっぱいに嗅ぐ。
女の子にはない、力強い香り。
「あふ……もう、我慢、できないよぅ……」

少女は、理樹を思い切り抱きしめた。
そしてそのまま、すとんと眠ってしまった。

***

「お前、何してんだ?」
翌朝。

「え?」
少女は真人の声で目が覚めた。
辺りをキョロキョロと見回し、ここが自分の部屋でないことに戸惑う。
目の前の少年が何者か気付いた瞬間、顔を真っ赤にしてパジャマの前を手で隠した。

「いっ」
「い?」

「井ノ原真人!? どうしてここにいるのよ!!」
「どうしてって、お前こそどうしてこんなところにいるんだよ?」
「へ?」
改めて周囲を良く見ると、確かにココは真人と理樹の部屋だった。
しかし、理樹の姿は見えない。
「理樹ならお前の後ろだ」
そう言われて振り向くと、そこには淡く目を開けた理樹。
どうすることもなく見つめていると、しょぼしょぼと寝ぼけた顔が、あっという間に覚醒した。
「かっ、か、佳奈多さん? どうして僕のベッドに入ってるんですか!?」

"佳奈多"は飛び退るように立ち上がり──そしてベッドの天井に頭をゴチンとぶつけた。
「いったぁーい……」
鬼も逃げ出す形相で真人を睨みつけると、佳奈多は涙目のまま男子寮を後にした。


──と、ここで終らないのがリトルバスターズ。
「お姉ちゃん、聞きましたヨ? 理樹くんの部屋に夜這いしたって」
「なっ……誰から!?」
「姉御から」
「どうして……まだ一時間目も始まっていないじゃない」
「あの人を敵に回したら最後ですからネ」

まさか寝ぼけていたなどと言い訳もできない。
「は、葉留佳……」
「なんですか、お姉ちゃん?」
「取引しない? 学食一週間、いえ一ヶ月。あなたがやったことにして頂戴。
あなたなら笑い話で済むでしょうけど、私だったら……」
「ふぅん、お姉ちゃん、自己保身のために妹をダシにするんですか」
姉譲りか、冷血そのものの目で見返してくる葉留佳の瞳。
「でも大事な大事なお姉ちゃんですからねえ、もう一つだけ条件を飲んで貰えれば、喜んで引き受けますよ」
「ホント? 恩に着るわ、葉留佳」

そして葉留佳の口から突いて出たのは、突拍子もないものだった。
「次は、私も混ぜて下さいね、お姉ちゃん♪」


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