八月。
「海水浴だーーっ!」
 高町家の夏は、なのはの歓喜の声で始まった。
 毎年の恒例行事だったゴールデンウィークの旅行は、なのはの管理局入局により中止となってしまったため、今年は海水浴を含めた夏の旅行だ。闇の書事件終結直後にもバニングス家・月村家・ハラオウン家を交えた旅行に出掛けたが、前回は参加できなかった八神家も加わり、五家族合同という一大ツアーとなった。アースラが本格的な整備に入ることもあり、スタッフ一同が合わせて休暇をとることができたのだ。
 レティ提督に付いていたはやて達にも休暇の許可が下りたのは、リンディ提督の根回しに違いなかった。
「じゃ、私たちのほうは整備の手続きを終えたらそちらに向かうわ。よろしくね、なのはさん」
 リンディ提督とクロノ・フェイト・アルフ、そしてエイミィも合流するようだ。
「じゃあ、フェイトちゃんたちのの水着用意しなきゃだね」
 翠屋での『作戦会議』の最中、なのはが提案する。
「そうだね。私たちのも買わないと、多分去年のじゃサイズが合わないし」
 すずかが大きく頷き、提案を肯定する。一方はやては指を頬に当てて考え込んでいた。はやては本調子ではないものの、もう歩けるまでには回復していた。
「私もヴォルケンたちも海水浴なんて行ったことあらへんし、皆の分買い揃えてやらんとなぁ」
「じゃ、みんなで買いに行こうよ!」
 突然、美由希が乱入してくる。
「あたしもエイミィの水着選んであげたいなぁ。お母さんもリンディさんの選んであげなよ」
「そうねえ、じゃみんなで買いに行きましょう」
 桃子の一言で、週末のデパートに水着を選びに行くことが決まった。
 はやてが不意に笑顔を浮かべてなのは達を呼ぶ。
「なのはちゃんとユーノ君、クロノ君の水着選んだってや。アリサちゃんすずかちゃん、私たちはフェイトちゃんのを選びに行くで」
 アリサにもすずかにも、はやてが企んでいることの察しは付いた。が、更にその斜め上だった。

 フェイト達は別行動で現地集合ということになっているが、高町家・月村家・バニングス家・八神家の計十七人は車三台に分乗するしかない。
「誰も運転できへんのは私の家だけやからな。私達が分かれるわ」
 はやてがそう言うなりヴィータは我先に飛び出し、旅行前から甘いムードを醸し出していたなのはとユーノの間に割って入る。
「あたしはなのはと乗る。ユーノ、邪魔すんなよ」
「邪魔してるのはどっちよ……」
 皆を代表して感想を漏らすアリサの足元に、青い影。
「……この車は、獣類は禁止か?」
 ヴィータに続いて動いたのは、意外にもザフィーラだった。
「いえ、歓迎いたします。お嬢様もお喜びになるでしょう」
「ザフィーラがこれほど人に懐くとはな」
 シグナムがそう漏らし、微笑む。
「それも、アリサちゃんにだけなんよねぇ」
 はやての意地悪そうな笑みに、アリサは顔を赤らめてそっぽを向く。
「もう、人をからかってないで早く乗りなさい……ちょっと鮫島まで何をニヤニヤしてるの!」
「いえ、お嬢様の幸せが私の幸せにございます」
 恥ずかしいのか、さっさと車に乗り込んでしまうアリサ。ザフィーラははやてを振り向くと少しだけ小さく唸り、アリサを追った。
「……ありゃ、機嫌損ねてしもたんやろか」
「私も一緒に行って、フォローしておきますね」
 シャマルがアリサ達の後を追おうとすると、シグナムが付け加える。
「お前だけでは逆に不安だ。主はやては月村家の車にお乗りください」
「うん、おーきに。そうさせてもらうわ」
 そして全員が車に乗り込み、ノエル・鮫島・士朗の運転する三台が順に発進していく。

 やがてノエルの運転する先導車が道路を外れ、砂浜へと降りていく。後続車もそれに倣う。
 そこは、それほど広いとは言えないが、綺麗な白い砂浜。
「ここ、私と恭也さんのお気に入りスポットなの。ほとんど人もいないし、貸し切り状態ね」
「じゃあ、お兄ちゃんとよくここに来るんですか?」
 忍がこくりと頷くと同時、はやての横槍が入る。
「夜の浜辺で二人、あんなことやこんなことを……」
 恭也と忍が同時に紅潮する。二人が慌てていることに疑問符を浮かべていたなのはだったが、何か閃いたように声を上げる。
「夜の浜辺で波の音を聴きながら星空を眺めたりしたら素敵ですよねぇ」
 無邪気に笑うなのはに落ち着きを取り戻す恭也と忍。一方はやては額に手を当て、なのはの鈍感さを嘆いていた。
「いいでなのはちゃん、後で『海での正しい男女の過ごし方』をたっぷり教えてあげるわ……」
 はやての頭の中で着々と計画が練られていることを、この時は誰も知らなかった。

 ユーノが不意に叫ぶ。
「フェイト達が来るよ!」
 ふと、砂浜の一部が輝き出し、一際大きな魔法陣が発生した。この場にいる者の大半は本物の魔法陣を見るのは初めてのことだったから、みな目を丸くしながら見守っている。
 やがて魔法陣の中央に、フェイト達五人とおぼしき光。その光が明確な人の姿となるや否や、アルフが魔法陣から飛び出し、なのはへと一直線に駆けてくる。
 そして成す術もなく、なのははアルフに抱き付かれた。
「わっ……アルフさん、今日はこいぬフォームじゃないの?」
 その質問に答えたのは、フェイトだった。
「人間の姿のほうがみんなと遊べるからね。ただそれだけだよ」
 アルフの抱擁から解放され、その場にへたり込む。フェイトの手を借りて立ち上がったなのはの目に映ったのは、同じように抱え上げられたアリサの姿だった。
「ちょっ、こらアルフ、犬の姿で大人しくしてれば優しく頭撫でてやったのに!」
「いやぁ、たまには逆もいいじゃん?」
 なのはとフェイトは目を合わせ、一緒に笑い始めた。



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