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よく晴れた日曜日の午後、翠屋のお茶会。
いつもの五人娘とエイミィ、クロノ、ユーノとが集まって、おしゃべりに興じている。
フェイトがなのはの隣で熱い目線を注ぎ、アリサとすずかは隣同士でやれやれと頷きあっている。
エイミィはクロノに「あーん」をしてケーキを運び、それを本気か否か嫌がっているのは、いつもの光景だ。
はやてはといえば、ユーノと向かい合い、ジュースを啜りながら傍観していた。
隣にいるクロノは何才も年上のはずなのに、妙な親近感を覚えるのは何故だろうかと、はやては考えていた。
パッと思いつくのは、エイミィとの関係だ。時にからかい、時に強い絆で、クロノと一緒にいる。
早くも尻に敷き気味の、姐さん女房っぷりを発揮するエイミィ。
そしてそれに赤面しながら捌ききれないクロノ。
これをニヤニヤしながら見ずに、何にニヤニヤしろと言うのだろうか。
ふと、はやては自分の胸元に目を落とした。
クリームと緑のタートルネックセーター。喉元の生地は首をすっぽりと覆い、下顎に掛かろうとしている。
関西人の気概が沸いてきた。談話が一瞬だけ途切れる空白の時間を突いて、はやては全員の視線を呼んだ。
「なぁ、みんな」
はやては衆目の中、くいとセーターの襟を持ち上げた。
そして鼻先まで覆い隠し、愛敬たっぷりの声で言った。
「ひとつ、上の男」

――場が止まった。

なのは、フェイト、すずか、そしてユーノはぽかーんとしている。
アリサは「ホント、バカね……」という顔でアチャーと溜息を吐いている。
滑った。完全に滑った。
後五年、そうクロノやエイミィくらいの歳にならないと分からないネタだったか。
年齢的に早すぎた一発ギャグに、はやては落胆を隠せない。
ただ一つだけ救いがあるとすれば、これが下ネタだと気付かれなかったことくらいか。

クロノは顔を紅くしている。意味は分かったのだろうが、突っ込めない顔だ。まだまだウブと見える。
さて、エイミィはといえば……必死に何かを堪えていた。
腹でも痛くなったのかと訝しがっていると、突然一人で大笑いを始めた。
「あははははははっ、はははっ、はははは、あははははっ」
全員の視線がエイミィに集まる。突然のバカ笑いに、誰もが戸惑いを隠せないようだった。
腹を二つに 追って苦しそうに笑う姿は、
「えっ、エイミィ……!!」
クロノは耳はおろか首まで真っ赤になって、エイミィの両肩を掴んだ。
だが、ツボに入ってしまったエイミィをどうすることもできず、笑いすぎて苦しそうな顔をただ茫然と見つめていた。
「……ははーん」
合点がいった。これはいいゆすりの種になりそうな予感がする。
はやては一息吐くと、クロノの肩をぽんと叩いた。
「まさかクロノ君が『ひとつ上の男』やったとはなぁ……お風呂にちゃんと入って、隅々まで身体を洗うんやで?」

何かが致命傷になったらしい、クロノはさめざめと泣きだした。
ユーノも自らの優位を悟ったらしく、はやてに後で種明かしをしてくれと耳打ちをしてきた。
意味を知っているらしいアリサを除いて、他の面子は開いた口が塞がらなかった。
「お兄ちゃん、『ひとつ上』って……そっか!」
フェイトはわなわなと震え、しかし次の瞬間には喜びのトーンに変わった。
尊敬の眼差しで義兄を見つめ、そして叫ぶ。
「お兄ちゃんって、他の男の人より凄いんだね!」
完全に勘違いしたフェイトの誤解を解くことは、誰にもできなかった。

その後、学校で嬉々として義兄の素晴らしさを周囲に説いていたフェイトであった。
クロノとアースラメンバーとの間に微笑ましい心の壁が張られたのは言うまでもない。

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