ある晴れた昼下がり。かがみの家に来ていたこなたは、おもむろに口を開いた。
「かがみってさぁ」
「何?」
「私のこと、好き?」
「……ぶっ」
かがみは口に含んだ麦茶を盛大に噴出した。中途半端に生温い水がこなたの全身に降りかかる。ぐっしょりと濡れたこなたは皮肉めいて、
「ねぇ、かがみ。冗談言った私も悪いけど、流石にこれはないんじゃないかなぁ……」
と上目がちにかがみを見上げた。
「あんたの自業自得でしょ。ったく……タオル持ってくるから、身体拭きなさい」
そう言って立ち上がりかけたかがみの手を、こなたは寄っていって強引に押さえた。
「やっぱり、どうでも良くなっちゃった。気にしなくていいからさ、キスしたら許してあげる」
「ちょ、アンタ……んむっ」
言うが早いか、こなたはかがみの唇を奪った。そのまま口を押し開き、舌を深く挿し入れていく。ちゅぷちゅぷと水音が部屋中に響いて、二人分の口で支えきれなかった唾液が服にゆっくりと垂れ落ちた。
何秒かして──かがみには何時間にも思えたのだが──こなたが口を離すと、銀糸が一本、二人の間に架かって、やがてぷつんと切れた。
「ごちそうさまでした」とおやつのクッキーでも食べたかのように両手を合わせるこなたに対し、
「な、ななななな……」
かがみは言葉が一言も出てこなかった。
「んー、かがみのその顔、いつみても可愛い」
こなたはかがみの頬をぷにぷにさせながら、
「まったく、かがみは照れ屋さんなんだからっ♪」
とからかい続けるが、一方かがみは真赤な顔をしたまま俯くばかりだった。
「ご、ごちそうさまはこっちの方よ……」
「何か言った?」
「な、何も言ってないわよ!!」
慌ててかがみは取り繕うが、こなたはニマニマニヤニヤと薄笑いを浮かべる。
「教えてほしいなぁ、かがみさん?」
かがみは紅潮した顔を背けて、だんまりを決め込んだ。
こなたが話しかけたり、頬を抓っても、一向に反応するそぶりも見せない。
「かが、み?」
「もう、知らない!」
その後は完全にこなたを無視して、かがみはそっぽを向いてしまった。
「かがみ? ねぇ、かがみ?」
かがみは立ち上がって鞄の中を漁り、中から教科書とノートを取り出すと、そのまま机に向かって勉強を始めた。
「えと、あ、その、かがみ……ごめん」
聞いているのかいないのか、かがみは無造作に教科書をめくり、ノートを書き取っていく。小一時間ものあいだ、ずっと。
「かがみ、ごめん、ごめんってば……」
問いかけるこなたの声は、次第に潤んでいく。
「かがみぃ……ごめん、ごめんなさい。謝るから、返事してよぉ、かがみ……」
両の目からポロポロと大粒の涙を零し、服の裾をきゅ、と握り締めたこなた。
かがみはそれを見て、ため息をついて、やっと口を開いた。
「まったく、少しは自重しなさいよね」
こなたの額を、軽くデコピンで叩く。『あたっ』と小さく叫び、弾かれた場所を押さえるこなたの手を、優しく取った。
そのまま、かがみはこなたの指に自らのを絡めて、そっと唇を寄せる。
「ちゅ……ん」
「かが、みぃ」
ごめん、ごめんね、と何度も繰り返しながら、こなたはかがみの胸に取り付いて泣きじゃくり始めた。
「バカね、アンタは。『ごめんなさい』じゃなくて『ありがとう』でしょ」
いつもより何倍も小さく見えるこなたの華奢な身体を、かがみはいつまでも抱き止めていた。
「ねぇ、こなた。今日は……今日は、あたしとお風呂に入る?」
「ホント? ホントに!?」
「ええ、まぁ、泣かせっぱなしって言うのも後味が悪いから」
「『ありがとう』、ありがとう、かがみぃ!」
「だぁー、ひっつくな、分かったから引っ付くな!!」
今日も、こなたとかがみの日常はゆっくりと過ぎていく。
一方その頃、つかさの部屋。
「んん……むにゃむにゃ……こなちゃん、お姉ちゃん、幸せになってね……むにゃ」
双子の妹は、今まさに正夢となっている眠りの世界にいた。