「ねぇこなた、何見てるの?」
 こなたの家へ遊びに来たかがみは、分厚く大きな本のようなものを取り上げ、読んでいる後姿に声をかけた。
「ん〜? これだよ」
 長い髪がはさり、と振り返ると、そこには穏やかな顔をしたこなたがいた。ちまこんとした身体に支えられたバインダーには、いくつもの写真が貼ってある。
「へぇ、アルバム?」
 かがみが覗き込むと、こなたそっくりの女性が手を振っていたり、赤ん坊を抱き上げていたりする写真ばかりだった。頬に泣きぼくろが無いのを見ると、どうやら別人らしい。
「うん、お母さんの。ほら」
 そういってこなたが閉じたアルバムの表紙には、「泉かなた S62〜H1」と書かれていた。色褪せた水色の筆跡は、世代を経た往年の丸みを感じさせる。
 こなたはぺーじをめくって、次なる笑顔の束をかがみに見せた。公園でこなたを抱いているかなたの写真、こなたが一人でハイハイをしている写真、こなたとかなたが一緒に入浴している写真……
「ホント、多いわね」
「私にはお母さんとの想い出が殆どないからね、お父さん、家にある全部の写真を頑張って集めてくれたんだ」
 こなたはそのアルバムを閉じると、別なアルバムを開いた。
「泉かなた メモリアル」
 中には、白黒の写真やセピア色の写真が所狭しと雑多に詰め込まれていた。日付のない写真もあり、感光が飛んでほぼ真っ白な写真もあり、何もかもがてんでバラバラに配置されているアルバム。
「私にはお父さんがいるし、今はゆーちゃんもいるし、全然寂しくないんだけど、最近お父さんがねぇ……
『頼むからお父さんの葬式には出席してくれよ?』なんて縁起でもないこと言い出して。私そんなに身体弱くないのにね」
 母の不在を事も無げに、否、笑いながら話すこなたに対して、かがみは心中複雑な思いだった。だが、
「こなた、アンタ……」
言おうとした言葉は、こなた本人に遮られた。
「あー、かがみんや。それ以上言うでない。私は、こがみにつかさ、みゆきさん、あとひよりんにパティも。皆みんないるんだから、本当に寂しくないんだよ?」
「こなた……」
 優しく紡ぐ言葉以上に、自分のことを真っ先に挙げてくれたこなたにちょっぴり嬉しくなったかがみだったが、
それも一瞬のことで、次の言葉には閉口せざるを得なかった。
「でもさ、かがみ、もし……」
「もし?」
「もし、今日一日だけお母さんになってくれたら、私嬉しいなぁ……」

「ハァ?」
 言葉は遠くにこだました。そして、帰ってこなかった。

「今日だけだからね……まったくもう」
 数分後、部屋にはゴロゴロとかがみに懐きっぱなしのこなたがいた。胸元に頬を寄せて、何度も擦る仕草はまるで子猫のようで、鏡も少しばかり悪い気はしなかった。
「おかーさん……あったかい……」
「しょうがないんだから、この子は」
 小さくて丸くて、心地よさそうに甘えてくるこなたの頭をかがみは優しく撫でる。しばらくはうにゃうにゃと寄り添っていたのだが、突然こなたはかがみのツインテールを弄るのを止め、切り出した。
「おかーさーん、おなかへったー」
「おなかへったー、ってね……それくらい自分でやりなさいよ」
「おなかへったー!!」
 駄々っ子のように我侭を言いながら、力の入っていない拳でかがみの胸をこなたはぽこぽこと叩く。離してくれそうにも泣く困ったかがみへ、すっかり幼児退行した追い討ちがかかる。
「おかーさんのおっぱい、のみたい」
「ちょ、こなたいい加減に──」
「のーみーたーいー!!」
 全く聞く耳持たずで、こなたは口を尖らせてかがみの胸に顔を埋める。胸間でイヤイヤ首を振るこなたに辟易したかがみは、『そろそろ辞めなさい』とばかりに肩を掴んで、こなたを無理矢理引き剥がした。が、それがいけなかった。
「おかーさんのおっぱい、のむのー!!」
 こなたはいたずらっぽくほくそ笑むと、かがみの服に潜り込んだ。どこか慣れた手つきでかがみのシャツを捲り上げ、ブラのホックに手を掛けた。かがみが驚いて声を上げる前に、さっさとこなたはホックを外して、蛍光灯の元に晒された乳房に触れた。
「こなたっ、やめなさっ……いっ……ひゃうっ」
「おかーさんのおっぱい、やわらかいね」
 『出ないと分かっているはず』、そう考えていたかがみの思惑とは裏腹に、こなたは唇を小さく開いて、かがみの乳首をはむ、と咥えた。
「きゃっ、こなた、止めて……」
「おかーさん、おっぱい出て来ないよ?」
 そのまま、ちゅうちゅうと音を立ててかがみの乳首を吸い上げるこなた。甘噛みして、吸っていない方の胸を手慰みに揉みしだき、こなたはますます深くかがみの胸に頭を押し付けていく。
 かがみは長く抵抗していたが、やがてトロンとした目になって、こなたのするがままに任せるようになってきた。
「こな、た……私が胸弱いの知っててやってるわよね?」
「んー、どうしたの、おかーさん?」
 可愛げな瞳を上目遣いに向けられると、かがみもついつい、何もかもを許してしまいそうになる。それを必死に堪えている心も、もう蕩けそうだった。
「こなた、おっぱい美味しい?」
「うん、おいしいよ、おかーさん」
 実際は何も出ていないのに、満面の笑みでこなたは答える。そして一際大きくかがみの胸を吸うと、そのままかがみの方へ倒れこんでいった。
「こなた……! ま、まだ早い時間だしご近所さんの目もあるしそれ何より……って、ん?」
 こなたはかがみに寄りかかって、静かな寝息を立てていた。最後の力を振り絞って乳を飲む仕草をしたのか、その寝顔は満足そうに安らかで、かがみも身体がポワンと温かく、釣られて眠りそうになった。
「おっとっと……こんなところで寝ちゃ失礼よね。あー、でも……」
 こなたの温かさに、かがみは少しずつ精神を削り取られていく。ちょっとだけなら良いかな、とじりじり防衛線を後退させていくうちに、とうとう睡魔に根負けしてしまった。
「やっぱり寝ようっと。おやすみ、こなた」
 かがみはこなたに寄り添ってゆっくりと目を閉じた。幸せな瞬間をできるだけ長く味わっていたかった二人だが、気付いたら二人とも夢の中で幸せの続きを噛み締めていた。

「あー、おはようかがみ。もう向こうには電話しといたから、今日は泊まっていきなよ。日も暮れて遅いしさ」
「おはよう、こなた……? え、私、寝てた?」
 かがみが気付けば、随分と遅い時間で、飯時もとうに過ぎていて昼寝というには些か以上に長かったようだ。
「そりゃあもうバッチリ。良い寝顔を見せてもらったよ」
「またアンタは人の顔ばっかり。何が付いてるっていうのよ」
「かがみの顔ねえ?」
 こなたはかがみにぐいっと顔を近づけて、まじまじと見つめる。
「な、何よ」
「今探してるの。かがみの顔に付いてるもの」
「改めて探してどうするのよ……」
 はぁと溜息を吐いたかがみに、こなたはこっ恥ずかしい台詞を言い出した。
「うーん、強いていうなら、私の幸せ?」
「なっ……」
「可愛いよ、かがみ」
 近づけた顔を更に近づけて、小鳥が啄むような軽いキスを交わした。
「かがみ、大好き」
「こなた、そういうことはね」
 かがみは小さな額に向けてデコピンを打つ。
「いったー、なんでそんなことするかなあ」
 突然の行動に戸惑ったこなたは抗議するが、かがみは当然のように切り返した。
「いい、そういうのはね、もっとムードがある時にするものなの。例えばお風呂上りの夜とか……ね」
 頬をポリポリと掻いて照れ隠しにそっぽを向くかがみ。こなたはニンマリと微笑んでその柔らかい場所を突つく。
「かがみったらまた素直じゃないんだから」
 こなたはクスクス笑ってかがみの手を取る。
「ほら、ご飯だよ。ちょっと遅いけど、かがみが起きるまでみんな我慢してたから」
「あ、ありがと」
 そして二人は部屋を出てリビングへ向かった。そこにはそうじろうとゆたかが、食事を今か今かと待ち構えていた。
「さ、食べよ」
「い、いただきます」
「遠慮しなくていいんだよ」
 そうじろうが心からの言葉を告げて、更にゆたかが受ける。
「今日は腕によりをかけて作ってみました」
 肉じゃがに温野菜のサラダ、豆腐の味噌汁。かがみを加えて食べる夕飯は、誰にとっても、何倍も美味しい逸品だった。


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