あれから一週間ほど経ったある日の朝。
「こーなーたっ☆」
「だーっ! 抱きつくな!!」
 かがみはすっかりこなたにベタベタだった。
「えー、いいでしょう? 女同士なんだから」
「いや私たちの場合女同士"だから"ヤバいと思うんだけど」
「ううっ……ぐすっ、こなた、私のこと嫌いになったの?」
 瞳をウルウルさせて迫るかがみには、こなたも逆らえない。
「んじゃ腕だけね……」
「わーいっ! ありがとっ、こなた!」
 頬に軽くキスをすると、かがみはこなたに腕を絡めて歩き出す。

 一方こなた。
「あー…かがみはツンデレだツンデレだと常々思ってたけど、まさかここまでデレるとは……」
余りの予想外っぷりに、未だに慣れないでいた。

 昼休み。
「ほらぁ、こなた。栄養偏ってる菓子パンばっかり食べてないで、少しは整ってるもの食べなさいよ」
 なんて言い出すなり、かがみがこなたの分まで弁当を作り始めて早数日。……確実に絆創膏の数は増えつつあった。
「かがみ、無理しなくてもいいんだよ?」
「いいのよ、こなたは食べるだけで」
 自分の分は──つかさのも含めて──質素なのだが、こなたの分だけはそれなり以上に豪華だった。
「お姉ちゃん、本当にこなちゃんのことが好きなんだね」
「愛の形は人それぞれって言いますしね」
「そうそう、それそれ! あーでも、愛の形ってどんな形だろうね? ハートかな?」
「心臓の形、では夢がありませんしねぇ……そうだ、あの形などはどうでしょうか?」
 みゆきが指差した先には、星型にくり抜いた人参の煮物。
「はい、こなた。あーんっ」
「じ、自分で食べるよ……」
「ぐすっ、私から食べるの、嫌?」
「あ、いや、そんなことないよ!? ほら、あーん……」(あーやりづら……)
「うーん、星型もいいけど、私は丸い方がいいかなぁ? あのほら、たまごみたいで」
「たまごにはコレステロール抑制作用があって健康にもいいんですよ──
 こっちはこっちで完全にズレた盛り上がりを見せていた。

 そんなこんなで放課後。その帰り道、いつもの路上で二人は。
「こなたぁ、今日私の家に泊まりに来ない? 週末なんだしさ?」
「え? あぁ、別に構わないけど、どうして──」
「愛し合う二人が同じ屋根に下にいるのは自然じゃない?」
「あー……そうだね、そうですね、イイよ、イキますよ……」
「ありがとっ! こなた、だーいすきっ!!」
 そのまま抱きついてキスするものだから、横を歩くつかさとみゆきは、目のやり場に困っていた。
「あはは……こなちゃん、今日は家にお泊りみたいだね」
「お泊りですか──ついつい夜更かししてしまいますよね?」
「うんうん! こなちゃんと前にお泊りした時も──」
 いつの間にか、ズレて盛り上がるこの二人も珍しくなくなったのだが、
「んじゃ、みゆきまたねー。それじゃ行きましょ、こなた♪」
「わ、ちょっと、引っ張るな──」
 デレデレのかがみは何日経っても珍しい存在に映った。

 夜、「どうぞ」とこなたの前に出された料理は、誕生日パーティーかと見紛う程の豪華さを伴っていた。
「か、かがみさん。いくらなんでも凄すぎなのでは?」
「やぁねぇ、こなたの為ならどんな料理でも作っちゃうのよ?」
 呆れ顔で箸を手に取るこなた。確かに匂いは問題ないのだが、さて味はどうか。おずおずと口に運ぶ。暫くもぐもぐやって、そして飲み込む。
「どーぉ?」
「お、おいしい……」
「もぅっ、こなたに『おいしい』なんて言ってもらえるなんて、幸せっ!!」
「お姉ちゃん、はしゃぎすぎだよ……」
 この時こなたはまだ、何がこの先待ち受けているか予想もできなかった──

「ごちそうさま〜」
「ごちそうさま、お姉ちゃん」
「はい、お粗末さま」
 言うなりつかさは食器を片付けるなり部屋に下がってしまった。それも姉に言われた一言からである。
──こなたと私の愛の巣に入ってこないでね──
 かがみが言ったこの言葉。恋は人を盲目にするというが、まさしく盲目である。それに気付かないこなたは、つかさを見やった後、ボソリと呟いた。
「デザートあるのかな? つかさ、体重気にしてたみたいだけ……どぉっ!?」
 振り向いたこなたはびっくりした。無理もない。いつの間にやら、一筋まとわぬ──どこで覚えたのか、エプロンとソックスは着けている──かがみが迫っていたからだ。
「デザートって言ったわよね? デザートは、わ・た・し☆」
「え、遠慮しておきますー!!」
 こなたは立ち上がるが早いか一目散に駆け出した。
「お、お風呂借りるねっ!」
 着替えをを取っては即座に脱衣所に駆け込んだ。
「はぁ……分かってないなぁ、かがみは」
 シャワーの水滴がこなたの髪を叩いていく。叩いては流れ落ち、やがてしっとりと濡れていく。そうやって湯を染み込ませている間に考えていたのは、勿論かがみのこと。

──かがみは、そりゃもちろん悪い訳じゃない。好きも好き、大好きだ。それにしても、あれは頂けない。もっとありのままの、そう、ツンデレだ。ツンデレのかがみが好きなんだ。まぁそれだけじゃないけど。なんというか、かがみ、無理してるような……?

 ガラリ。
「ん?」
「こなたぁーっ!」
「うわーっ!!」
 今度こそ素っ裸で、かがみは浴場に入ってきた。
「今日は私が洗ってあげるから!」
「わぁーっ、もういいってば!!」
 これを言うと、お決まりのようにかがみは泣き顔になった。こなたはそれを見て何ともいたたまれない気持ちになり、

そのまま抱きしめた。

「バカだなぁ、かがみは。私がそんなことで嫌いになるはず無いでしょ。好きだよ、大好きだよ。かがみ」
 こなたは腕の力を緩める。刹那、かがみの唇へと自らのとを近づける。
「いつもどおりの私たちでいいんだよ。時々こうして」
 そして、口付けを交わす。
「彼氏彼女らしいことがちょっとできれば、それでいいんだよ」
 抱きしめられていたかがみは少しの間こわばっていたが、やがて力を抜き、静かに嗚咽を漏らし始めた。
「うぇっ、くすっ、だって、こなたが好きって言ってくれたから、私も一生懸命応えてあげようとしたのに……ずるいよ」
「かがみ、かがみはありのままのかがみでいいんだよ。私も、ありのままの私だから……ん」
「どうしたの?」
「あ、いやさ、こう抱き合ってたら……このままかがみを抱いちゃおっかなぁ、って」
 途端、かがみの口からプッ、と小さく息が吐き出される。顔には嬉しさと、自然さが張り付いていた。
「はははっ、こなたらしい。……いいよ」
「かがみ……」

 その後中々風呂から上がってこなく、業を煮やしたつかさがのぼせ上がった二人を見つけるのは、また別の話。

 布団の中で、夜も更けて。
「おやすみ、かがみ」
「おやすみ、こなた」
 部屋からはぽっかりと満月。空に輝く星々は、その明かりに遮られ点々と。布団の中では、互いが互いの心を明るく照らしている。

 一方隣の部屋には、つかさはいない。久方ぶりに、姉いのりの部屋に転がり込んでいた。
「アンタと寝るのも久しぶりだねぇ」
「だってこなちゃんとお姉ちゃんが羨ましいんだもん」
「ははは。それじゃ、おやすみ」
「おやすみなさい」

 柊家に灯っていた明かりが、今消え、夢が始まっだ。
 寝息の和音。布ずれの音。今宵は、思ったよりも早かったようだ。


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