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「はいあなた、あーん」
「あーん」
なのはが焼いた、クリスマスのホールケーキ。
六人で囲むテーブルなのに、その内半分がたった一人の腹へと収まっているように見えるのは、
ヴィヴィオの気のせいではあるまい。
「なのは、もうお腹いっぱいだよ」
「うにゃー、わたしのケーキが食べられないのー!? だったら口移ししちゃう!」
「ママ……」
ヴィヴィオとアインハルト、リオ、そしてコロナはシャンパンだが、なのはとユーノはワイン。
完全に酔っ払った幼女同然の一名は、物凄い絡み酒をしていた。
雪降るクリスマスの夜、六人が集まってこじんまりとしたパーティーを開いていた。
「あ、あの、いつもこの調子なのですか?」
「えーっと……今日はいつもより過激かな……」
まごまごしているアインハルトの肩にぽんと手を置き、ヴィヴィオが首を横に振る。
それは、全てを諦めた遠い目だった。彼女もそれで納得したらしく、神妙に頷いた。
「あははっ、あなた、だーいすき!」
そして押し倒した。非力な娘に両親を引き剥がすだけの腕力はない。
というか、そんなやる気すらとっくに消え失せていた。
だって、なのは以上にユーノが楽しそうだから。
「うふふ、にゃはは、あーなーたー。ふふっ、愛してるー」
「僕もだよ、なのは」
「ホントに? ホントのホントのホントに?」
「ホントのホントのホントにだよ。なのは以外に好きな女の子なんて、この世にはいないさ」
「ううっ、わたし、感激だよぉ…あなた、あなたーっ! 大大大大だいすきー!!」
いちゃいちゃが度を過ぎて服を脱がせ始めたら流石にご退場頂こうと決めて、
ヴィヴィオはローストチキンを切り分けてリオとコロナに差し出した。
「そういえば、こんなになったパパとママを見たのは初めてだっけ?」
「う、うん……ちょっとびっくりかも……ね、リオ」
「でも、凄く幸せそうだね、コロナ」
キラキラした光が、二人の間で煌き始めた。まさかと思う兆候に、慌ててアインハルトを振り向く。
そこには、ふるふる震えながら妄想に浸っている覇王がいた。
「ヴィヴィオに『あーん』……ヴィヴィオに口移し……ヴィヴィオと……うふふあははふふふふふ」

もうダメだ。

「アインハルト♪」
甘えた声で、呼びかける。それは、クリスマスだけの願い。
イチゴのケーキをフォークで柔らかく切って、アインハルトへと向ける。
「はい、あーん」
「……もう、ヴィヴィオったら」
なんだかんだ言って微笑みつつも、その口ではむ、とケーキを食べてくれた。
もきゅもきゅ口を動かして飲み込んで、最初に出てきた言葉は。
「美味しいです、ヴィヴィオ。また一段と上手になりましたね」
「えへへ、ありがとう♪ ……ね、アインハルトのも一口、ちょうだい?」
上目遣いにお願いしてみる。うるうるの瞳をアインハルトに直撃されると、恋人は顔を真っ赤にして「はい!」と意気込んだ。
いつもと同じ、どこかぎこちない手の動き。妄想と実際はやっぱり違うらしい。
たどたどしくケーキをフォークに刺している間、ヴィヴィオはニコニコ顔でアインハルトを見つめていた。
「で、では……あーん」
「あーん」
アインハルトが食べさせてくれるケーキ。それはきっと、この世で一番の幸せ。
クリームが口の中で溶けて、ぷちぷちと甘酸っぱいイチゴが弾けて、ふわふわのスポンジが柔らかくて、とっても美味しい。
「これでママがアレじゃなければ完璧なんだけどね……」
ヴィヴィオも半分手伝ったけど、クリームをデコレートする段階で「ダメ! わたしがパパのためにやるの!」と、
どう考えても園児並みの拒絶を受けたので仕方なく諦めた。
そこがなのはの可愛いところでもあって、ユーノが惚れたのも分かるのだが……
「何かもういいや。アインハルト、手、繋ご?」
「はいっ」

頭を切り替えて、いちゃいちゃモードに突入することにした。
まだまだ両親みたいには思い切れないけど、大好きなアインハルトと一緒にクリスマスを過ごすのは、
嬉しすぎて飛び上がりそうだった。
「リオ、あーん」
「あーん」
隣で、二人もすっかり自分たちの世界にのめり込んでいる。
料理を取ったり、口移ししてみたりと、ひたすら甘い空気に浸り続けていた。
「アインハルト、だーいすき!」
「私もですよ、ヴィヴィオ」
そして静かに、クリスマスパーティーの夜は更けていった。
その外では、真っ白な牡丹雪が音も立てずに降り積もっていった。

***

その頃、海鳴のハラオウン邸では、フェイトが玄関口で心底驚いていた。
海鳴にも雪が降っていて、景色を白く染めていた。
「お兄ちゃん! エイミィ姉さんも!? 出張じゃなかったの?」
「いや、急遽キャンセルにした。ありとあらゆる理由を思いつくのに、艦のメンバー全員で会議をしてね」
休暇をリンディとカレル、リエラと一緒に過ごすはずだったが、思いがけず兄夫婦が帰って来たのだ。
ニヤリと笑ったクロノ。その後ろを小突いたのは、すっかり背を追い抜かれたエイミィ。
後ろから抱きついて、うにうにとほっぺたを捏ね回す。
「いつの間にそんなに偉くなったのよ? ねぇ、クロノ艦長?」
「う、うるさい! 大体僕はもう二十も後半だぞ! いつまでも子供扱いしないでくれ!」
「いくつになっても、あたしより年下でしょ。生意気な子だね、えいっ」
ぽかんと見上げているカレルとリエラ。ようやく両親が帰ってきたことを実感すると、それぞれの胸に抱かれていた。
「クロノは羨ましいね。私も早く結婚したいなぁ」
でも、まだ仕事が忙しすぎる。もう少し落ち着いてからでないと、彼氏の一人でもできたところで会えそうにない。
そうこうしているうちに、エリオとキャロがルーテシアを連れて部屋に入ってきた。
「お世話になりますー!」
「お久しぶりです、クロノさん、エイミィさん」
「あの、これ、やっぱり私は場違いじゃないかしら……?」
ルーテシアが家族の空間にいる中、リンディがそっと寄ってきた。
そしてその手を優しく引いて、部屋の中へと誘う。
「せっかくのパーティーだもの、あなたも楽しみなさい。さ、料理もできてるから」
「……はい!」
元気よく返事をして、エリオとキャロを両腕で抱くルーテシア。
それを見ていたフェイトは微笑みながら、ぱたぱたとキッチンまで駆けていった。
その後……

「なーんでエリオはキャロとばっかりいちゃいちゃするのよぉ……私ともいちゃいちゃしなさいよぉ……
私はもう準備おっけーなんだからねぇ……」
「なのは、なのは、なのはぁ……お幸せにねええええええええええええええええ!
ユーノ、私と代わってええええええええええええええええええ」
女二人で壮絶に絡み合っていたフェイトとルーテシアだった。

***

バニングス家では、アリサがすずかを招いて、二人だけのクリスマスパーティーを開いていた。
すっかり大人になった二人はビンテージのワインを傾けて、ちびちびと飲む。
忍は恭也と一緒に香港へ旅行へ出ていた。
ノエルとファリンもタイミングよく休暇を取らせて、今すずかはアリサの部屋で半分同棲している。
「ねぇ、あたし達って他に過ごす相手いないのかしら……そりゃ確かに女二人ってのは気楽だし、
すずかと一緒にいるのは楽しいけどさ」
「楽しいなら、それだけでいいと思うよ? 私は充分幸せだし」
ぴとり。寄り添ったすずかの温かさに、アリサはドキリとする。
雪夜の空を見上げて「綺麗だね、月……アリサちゃんみたい」とクスクス笑うと、皿の上にあるイチゴを一つ取った。
「たまには、静かなクリスマスもいいじゃない?」
「……そうね。すずか、もう一回乾杯しましょ」
バカラグラスを高く掲げて、窓から細く差し込んでいる月明かりに映す。
チン、と高くなったグラスの中は、ワインがなみなみと注がれていた。


はやては例年にならって、あちこちに設置したカメラをぐりぐり回しながら、ビール片手に焼き鳥を摘まんでいた。
「いえーい残業最高やー! 残業バンザーイ!!
シグナムもシャマルもヴィータもザフィーラも全員早番やー! クリスマスなんて爆発してまえー!!
なのはちゃん、もっと責めていかんかい! ユーノ君は積極的やないんやで!?
おいクロノ君、男気見せや! ルーテシアもエリオ襲ってまえ、がははははー!!」
「はやてちゃん、明らかに仕事してないですぅ……」
書類は山になりとうに崩れ落ち、メールは受信しすぎてボックスがパンパンになっている。
空になった缶ビールだけが整然と並び、見事なピラミッドを作っていた。
「どうせ、始末書がもう一枚増えたところで大したことないんやで、リイン? せやからリインも飲め」
「ムチャクチャですぅ! ……んっ、ごくごく」
タレで汚れた手を蒸しタオルで拭き、どっちが合間なのか分からないスピードで端末のキーボードを叩き続ける。
風情なんてあったものではない。
窓は雪が見えないようにブラインドを下ろし、回線も全部切ってある。
これ以上、真夜中に仕事が舞い込むのはごめんだ。せめて、見えない場所に溜めていて欲しい。
「さぁ〜って、ウィー、ヒック……続きを片付けるで、リイン〜?」
辺りを見回しても、リインフォースIIがいない。
足元に目を落とすと、アルコールで目を回したユニゾンデバイスがくてんと寝ていた。
「あぁーやってもうたー、もうこんなんじゃ仕事でけへんなー。よっしゃお休みやお休み! 今日は飲んで飲んで飲みまくるでぇ!」
翌日、二日酔いで頭がガンガン鳴り響く中、始末書を書きつつ、文字通り山になった仕事を片付けるのだが、
それはまた別なお話。


そして聖王教会。
「えっと……あたし、どうしてリボンで縛られてるんですか?」
「私のクリスマスプレゼントです。頑張った自分へのご褒美です」
「ふえーん、やっぱりそのオチー!? っていうかそんな言葉どこで覚えたのぉ!?」
スバルは真っ赤なリボンに緊縛されていた。当然のように裸である。
しかも靴下だけは履いたまま。
最近、冥王の俗物化が激しい気がする。しかも縛る技術は上昇する一方である。
「じゅるり。いただきます」
「いただかないでぇー……ひゃぅんっ!」
完全に性夜となった部屋の向こう側で、呼ばれたのはいいものお茶を差し入れるべきかどうかと本気で悩んでいるセインがいた。
頭を抱えているうちに、冷気がゆっくりと紅茶を冷ましていった。

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