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まだ、スターズ分隊の二人が訓練生だった頃。
「どけどけどけーっ!」
今日もまた、弱肉強食の熾烈な争いが始まる。

「くっ……遅れたみたいだね、ティア、行くよ!」
「え、ええ」

1日30個限定メニュー、「キャラメルアイス」。
お1人様1個限定の、超絶デザートだ。
昼を告げる鐘と同時に売り出されるそれは、戦いを諦めた瞬間に売り切れるという魔の一品。
スバルとティアは第一陣に遅れることわずかに数歩、しかし致命的な数歩を何とか追い越すために疾走していた。

「アンタのジャンプ力なら何とかなるんじゃないの!?」
「できるかもしれない。けど……」
「けど!?」

怒号が飛び交う廊下。
食堂までは、どんな全力でもまだ1分はある距離だ。
ティアはスバルに先に行くよう促すが、その歯切れは悪い。

「どうしたのよ、いつものアンタなら莫迦みたいな鉄砲玉で飛んで行くじゃない。
今日に限って調子悪いとか言うんじゃないでしょうね?」
「ううん。そうじゃなくて」

スバルは思い切り息を吸うと、スパートをかけた。
その右手はティアの左手を力強く握って、前にいる集団をすり抜けていく。
「ティアと一緒じゃないと嫌なの!!」

スピードについていけず、ティアは思わず転びそうになる。
そうする度に、スバルはティアの腕を引いて、バランスを取らせる。
「ほら、見えてきた!!」

食堂のドアは、大開きになって二人を迎え入れている。
滑り込むように駆け込んで、ドアをバタリと閉めた。

「あっ、こら、押すな!」
「ちょっ、どいてよ、痛い!」

後ろでは阿鼻叫喚の大騒ぎだ。
一歩間違えればスバルたちも巻き込まれていたことだろう。

***

そして。
意気揚々と食堂のおばちゃんにアイスを注文すると、おばちゃんは申し訳なさそうに目を細めた。
「ごめんなさいねえ、もう1個しか残ってないのよ」
「えええええっ!」

あの集団は既に第二陣であったことを思い知らされ、がっくりとうなだれるスバル。
おばちゃんも声をかけずらそうにして、1個をレジに出した。
「どうする?」
後ろの連中は唖然としている。
膝を突く者、頬に熱い雫を流す者、呆然とする者。様々だ。

「それ下さい。……あたしが払いから」
「ティ、ティア?」

最後の1個を華麗に買い取ると、ティアはスバルの手を──来た時は逆に──引いて、テーブルに着いた。
あとのメニューはテーブルごとだ、取りたいだけ取って食べたいだけ食べられる。
「スバル」
ティアはアイスを差し出すと、恥ずかしそうに顔を赤らめて顔を背けた。
「アンタのお陰で買えたんだから、まずはアンタが一口食べなさい。後は半分こよ」
スバルは戸惑いつつもアイスを受け取ると、そういえばとティアに聞いてきた。
「お金半分払うよ──」
「要らないわ。……馬鹿力のお礼よ」
そっぽを向いたまま、財布に手を伸ばしたスバルを止める。

「ティア……ティア、大すきー!!」
「あ、ちょ、やめなさい、往来のど真ん中でしょうが!」

ちなみに、スバルが「あーん」を所望したが、ティアはゲンコツでそれに応えた。
「調子に乗らない」


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