「ちょっと出かけてくるぜ」
そういって、真人は出かけていった。理樹は山にでもこもるのだろう、
そしてすぐに帰ってくるのだろうと気にも止めなかった。
……だが、真人はそのまま、戻ってこなかった。

「いつものことじゃないのか?」
鈴が事も無げに答えた。が、もう真人が失踪してから三日も経つのだ。
作戦本部、兼教室は暗い雰囲気に包まれている。唯一能天気――いや楽観的なのはクドだけだ。
「井ノ原さんの筋肉なら向かうところ敵なしなのです。だからきっと大丈夫なのです!」
そこで葉留佳が一言、
「でもあの脳みそまで筋肉な真人くんなら、頭脳戦にコロッと引っ掛かっちゃうよね」
周りはうんうんと頷いて現状を追認したが、クドは一人エコーを引いて落ち込んでいた。
「探しに行くぞ、理樹」
突然、鈴が理樹の裾を引っ張った。その目には闘志が宿っている。
「どうしたのさ、そんな燃えて」
何となく、何となくだが、いつもの鈴と違う気がした。こう、人のために立ち上がっているかのような。
「クドが困ってるんだ、助けてやるのが友達だろう」
「って鈴自身は真人はどうでもいいの?」
「ん、まぁ殺したって死なないやつだからな」
それは一理あるけれど。
「馬鹿馬鹿しい。どうせほふく前進で富士登頂とかやってるんでしょう、私は抜けるわ」
「わ、待ってよお姉ちゃん!」
早速佳奈多と葉留佳も抜けた。だが、言われてみればそんな気もする。
「やっぱりバカの気紛れなのか?」
鈴が腕組みをして、頭を左右に振りながら考える。そこへ恭介がぴしゃり。
「あいつは底抜けにバカなところはあるが、みんなを心配させるようなことは今までなかったはずだ」
思いもかけない一言に、場が一瞬固まる。確かにそうだ、と謙吾が頷いた。
「とにかく、みんなで探しましょう〜」
小毬が、のんびりした口調で言う。和みの空間が出来上がってすぐ、唯湖がまとめる。
「よし、理樹君と鈴君は裏山を、小毬君は寮をもう一度。恭介氏と謙吾少年は街に出て目撃情報を探してくれ」
「来ヶ谷さんは?」
理樹の質問に唯湖は、
「私とクドリャフカ君は裏庭を探す。そう、誰もいない空間で、クドリャフカ君と二人……」
「ってアンタが犯人じゃないか!」
どこからか聞こえた突っ込みに、唯湖は涼しい顔を崩さなかった。

「で、こんな山の中に真人はいるのかなあ」
所変わって裏山。生い茂った草に、高く生える木々。暗くて歩きにくくて、というか完全に獣道だった。
理樹と鈴は離れないように、紐を繋いで真人の姿を探す。
携帯の電波などとっくに届かない、見失ったらどっちが迷子なのかも分からなくなってしまう。
時折、頭上を見上げる。鷲だか鷹だか、あまり飛ばれて嬉しくないのが何羽か旋回していた。
木の上で呑気に寝ている真人という図も考えられたが、生憎とそこまでお気楽ではなかったようだった。
そして。
「わ、わ、わっ……!」
鈴の踏み出した先には、大地はなかった。
胃のストンと中空に浮く、あの嫌な嘔吐感と一緒に、目の前の世界が上にシフトする。
咄嗟に手を伸ばした。触れたものをがむしゃらに掴んで、ぐいと引き寄せる。
それは、あろうことが理樹の袖だった。
「うあっ、あああああーっ!」
バランスを崩した鈴は、紐で繋がれた理樹もろとも崖の下へと真っ逆さまに落下していった。



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