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「さささささ・さささ?」
「違うな、佐笹川・笹身だよ」
「ん、あいつは鶏肉なのか?」
「あれ? 僕もそういう風に記憶してたんだけど……おっかしいなあ」
「確かはるちんは、笹々佐・佐美々だったと記憶してますヨ!」

鈴と理樹と葉留佳、それから真人が一室に集まってうんうんと唸っていた。
珍しい取り合わせにも見えるが、最初に鈴と理樹がいて、
次いで真人が遊びに来て、そして葉留佳が乱入するとこうなるのだ。

本日の議題。
「あのタカビーツーテールの本名と漢字は?」

最初の「ささ」と最後の「み」はどうやら意見の一致を見たのだが、
その間に何が入っていたのか、誰一人まともに思い出せないでいるのだ。
「笹々佐・美々美」
「見事に名字が『さ』で名前が『み』だね」
どっかの小説家がつけた名前みたいだ。
なんだか、ちょっと現実味がない。

「分かった! 笹ヶ川・佐々美だよ!」
葉留佳が立ち上がって勝利宣言をしたが、これも空振りな気がする。
「そもそも、あいつの本名を一度でも聞いたことのある奴はいるのか?」
真人の至極もっともな疑問。
挙手を取ったら、なんと鈴一人だった。
「確か、自己紹介してたな。何て言ってたのか忘れたが」
──そう、忘れていたら最初からこんな話し合いなどしないのだ。
答えの出ないまま、あまりにも不毛すぎる時間が過ぎる。

と、丁度本人が通りがかった!
チャンスだ!!

「いや、思い出すまで何とか頑張ってみようぜ」
ハイキックが炸裂した。
真人にとっては何とも不条理な話である。
「もう2時間はずっと考えてるだろぼけー!」
鈴の集中はとっくに限界だったらしい。
真人を慰め、鈴をたしなめると、理樹は『謎の少女・S』へと向かっていった。
「ねえ、……えーと」
名前が分からず話しかけられずにいると、上手いこと向こうから振り向いてくれた。
「あら、わたくしに何か御用ですの?」
理樹は非常に慎重に言葉を選ぼうとした。
『えーっと、フルネーム、漢字でどう書くか教えて欲しいんだけど』
こうか? それとも、
『佐笹川さん、だっけ?』と敢えて間違いかもしれない名前を言ってみるか?
唸りながら迷っていると、段々彼女が怪訝な顔をし始めた。
「用がないのでしたら、わたくし行きますわよ?」
いけない、立ち去ってしまう!
こんなモヤモヤを残したままで!

すると、サッと葉留佳が飛び出してきた。
ちょっぴりぷりぷりしている。全然問題が解けなくてイライラしている顔そのまんまだ。
「笹々佐美々美さん、あなたの名前は何ですカ?」
彼女は一瞬驚いたようだった。
だが、「さささささ・みみみ」という訳の分からん音素の羅列が自分の名前を指しているのだと知ると、
猛烈に怒り出した。

「わたくしの、名前は!
さ・さ・せ・が・わ・さ・さ・み、ですわ!!
笹・瀬・川・佐・々・美!!」
「さささがわささみだな。佐笹川佐々美。分かった」
横から入ってきた鈴が、勝手に結論付けた。
「むきぃーっ!!」

結局、佐笹川佐々美という名前に落ち着いてしまったささ身であった。

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