「こんにちはっ」
 あきら君はお父さんに連れられて、なつみちゃんの家に遊びにきていました。
 小学校はちがうけど、なつみちゃんとはとっても仲良し。
 その日も、いっしょにおでかけして、コスモスのいっぱい咲いている野原まで歩いていきました。
 カラッと晴れた秋の空には、アカトンボが飛んでいます。ノラ猫がのんびりと毛づくろいをしていて、ほんわかとした一日です。
「あ、ほら、見えたよ!」
 ぽっかりと、広い野原がありました。だれかがお花をいっぱい咲かせたくて、こんなにステキな場所を作ってくれたのでしょうか。
 はじめてあきら君がなつみちゃんと会ったのもこの野原で、その時もたくさんのコスモスが咲いていたのです。なんにもないただの原っぱで、雲のすきまから差し込んだ太陽の光が、気持ちよさそうに照っていました。
「わあっ!」
 野原のまん前まで来ると、あきら君がおどろいて声をあげました。なんとそこには、金色に光るコスモスが、じゅうたんのようにたくさん咲いていたのでした。
「すごぉぃ! なつみちゃん、どうしてぜんぶ金色なの?」
 あきら君がビックリするのもムリはありません。だって、この前に来た時は黄色にピンク、赤。いろんな色のコスモスがあったんですから。それに、ススキとかねこじゃらしもありました。
「うーん、よく分からないけど、きっとお花の神様は金色のコスモスが大好きなんだよ」
 さっそく、なつみちゃんが走り出しました。その後を、あきら君が追いかけます。
「あっ、待ってよー」
「あははっ、ここまでおいでっ」
 なつみちゃんのスカートが、ふわりとゆれます。風に乗ったコスモスのいいニオイが、野原を走り抜けていきました。
 走って、おいついて、また走って。ふたりのステップが、野原でダンスをおどります。
 その時、ぽてっとなつみちゃんが転んでしまいました。あきら君はあわてて走っていきました。
「だいじょうぶ、なつみちゃん?」
 あきら君が聞くと、なつみちゃんは立ちあがって、まっすぐうなずきました。
「あはは、しっぱい、しっぱい。でも、だいじょうぶだから心配しないで」
 でも、そのあとすぐ「いたっ」と言って、なつみちゃんはうずくまってしまいました。ヒザこぞうから、うっすらと血が出ています。
 泣きたいのを、がんばってこらえているようです。
「たいへんだ、早く治さなきゃ」
 そう言うと、あきら君はハンカチを取り出してなつみちゃんのヒザをぐるぐる巻きにしました。お母さんみたいにうまくいきませんが、これでとりあえずだいじょうぶそうです。
「動いちゃダメだよ。でも、何して遊ぼうか……そうだ!」
 あきら君はいいことを思いついて、金色のじゅうたんから何本かのコスモスを引き抜きました。くるくると編んでいくと、キレイな花のわっかができました。ブレスレットです。
「はい、なつみちゃん」
 ブレスレットをなつみちゃんの手首にはめてあげると、なつみちゃんは痛いのをわすれて、ヒマワリみたいなえがおになりました。
「ありがとう、あきら君! ねえ、このわっか、どうやって作るの?」
「うん、それはね、ここをこうやって」
 ふたりで花かんむりを作っていると、あっというまに夕方になってしまいました。
「おーい、あきら、帰るぞー」
 お父さんが原っぱの入り口で呼んでいます。あきら君は元気に返事をして、なつみちゃんの頭に花かんむりをのせました。
「これ、プレゼント。次にまたコスモスが咲いてたら、いっしょに花かんむり、作ろうね!」といって、あきら君はなつみちゃんの手を引いて立ち上がりました。
「わっ、わたしも!」
 なつみちゃんも、自分で作った花かんむりをあきら君にかぶせました。そして、ほっぺたに「ちゅ」と、かわいくキスをしました。
「これは、わたしを助けてくれたお礼!」
 なつみちゃんの顔が、ほんのりと赤くなっています。
「それじゃまたね、わたしは一人で帰れるから!」と言って、なつみちゃんはお家に帰っていきました。ケガをしたほうの足が、ちょっぴり痛そうです。
「お父さん、ちょっと待ってて!」
 あきら君は、なつみちゃんを家まで送っていくことにしました。あきら君の目には、なつみちゃんが金色のじゅうたんを歩く、妖精に見えたのでした。

(了)



小説ページへ

inserted by FC2 system