「2、3、5、7……」
暗い部屋の中で、素数を数える青年がいる。
「53、59、61、67……」
傍らには、幼い少女。
「101、103、107、109……」
青年は落ち着こうとしているのか、もはや素数を数えるのが目的となってしまったか。
「211、223、227、229」
「ぱぱ、うるさい〜」
娘が文句を言った。目を擦り、むくりと起き上がる。
父親のせいで眠れない身体をふらふらと動かして、少女は部屋を出て行った。
「どこに行くんだい?」
「……おしっこ」
少女の影は、ドアの向こうに消えていった。
青年を残して、部屋は静かになる。
窓辺から二人を見下ろすちょっぴり欠けた満月は、明日になったら本物になるだろう。
「僕もいい加減、寝ないとな」
そう気合は入れ直すものの、今度は娘同様に催してきた。
用の一つでも足せば落ち着くだろう、と考えて立ち上がると、服の袖が引っかかった。
「ん?」
その先には、女性の手があった。
白くて、滑らかで、思わず手触りを確かめたくなるような、すべすべした手。
きゅっと袖を掴んだままの女性は、むにゃむにゃと聞き取れない寝言を話して、ころんと寝返りを打った。
だが、それでも袖だけは離さない。
青年は指を引き剥がすような無粋な真似はしなかった。
パジャマを脱いで女性の腰に置き、その手をそっと撫でる。
「ちょっとトイレに行ってくるだけだから、心配しないでね、なのは」

──そしてユーノ・スクライアは、ヴィヴィオの後を追って静かに部屋を後にしたのだった。

海鳴聖書バプテスト教会。
太平洋の向こう、アメリカでは最も普遍的な宗派の一つが、この街に教会を構えていた。
カラリと晴れた大安の日曜日、高町なのはとユーノ・スクライアを知る全ての人々がこの教会に集まっていた。
アリサ、すずか、はやてといった古馴染みの友達から、スバルやティア、果てはカリムやナンバーズの顔までが見える。
「あはは、なのはが『どうしても海鳴で式を上げたい』って言うので……
決して聖王教会で挙式をするのが嫌だったとか、そんなんじゃないんですよ?」
ベルカの騎士を目の前にして、しどろもどろになるユーノ。
「大丈夫、分かっていますよ。それに、向こうには向こうで今日予約が入っていますから」
カリムは、慌てた様子のユーノにクスクスと笑いながら相槌を打った。
どの道、聖王教会の挙式予定表は一年分丸ごと予約でいっぱいだったのだ。
如何に管理局が誇る不屈のエース・オブ・エースでも、そこまではどうしようもない。
「あ、ほら、そろそろ始まるんじゃないかしら」
カリムが時計を見る。確かに、そろそろと言ったところだ。
だが、まだ肝心の顔を見ていない。その肩を小突くまでは、締まるものも締まらないのだ。
「ふぃ〜、遅れてすまなかったな」
「あぁ、やっと来たのか。妹はちゃんと律儀に来てるってのに、君は遅刻かい?」
「うるさい、その我が愛しき妹君のせいでな、僕は仕事を二人分背負う羽目になったんだ」
やっと来たか。ユーノは若き提督の肩を小突いて、その日一日の儀式とする。
「おっと、もう時間だ。じゃ、次はまた向こうで会おう、クロノ」
「おう。なのはの晴れ姿、しっかりと目に焼き付けておかないとな」
皮肉を言うクロノに、『じゃ、今言ったことそのままエイミィに届けるから』と残して、
ユーノは係員に従って控え室を出て行った。
「いってらっしゃい、『新郎さん』」
カリムの聖母のごとき声が、その背中に投げかけられた。
ユーノの姿を見送った後、やにわにクロノは自らの役目を思い出した。
「そうか、僕も『アレ』を準備しに行かなきゃいけないのか……すっかり忘れてたよ」
「あらあら。クロノもおっちょこちょいさんですね」
それじゃ、と言ってクロノもまた部屋を出て行った。
カリムもすぐに支度を整えると、『アレ』のことを考えながらもう一度笑った。
──まさか、あのクロノ・ハラオウンがユーノさんのために、ね。

***

聖なる鐘の音が響き渡る。
パイプオルガンの厳かな音色が、心地良く胸と耳に染みこんでいく。
スバルはハンカチを三枚用意してもまだ足りないのではないかというほどに号泣している。
はやては最前列に座って三脚を構え、どんなシーンをも逃すまいと目を光らせていた。
ユーノはガチガチになって直立し、じっとなのはの入場を待つ。
キッチリと着込んだタキシードだが、ネクタイがずれてはいないかと余計な心配をするほど、
今ユーノの感情は振り切れるまでに高まっていた。
横には、既に入場を終えたブライズメイドのフェイトと、グルームズマンの恭也。
身の回りの男性率が異様に少ないために一人ずつになってしまったが、致し方あるまい。

続いて、リングボーイのカレルが入場してきた。
親友の愛すべき甥は、硬い足取りながらも、確実にリングピローを運んでくる。
ほんの少し見ない間に背も高くなり、顔も凛々しくなっている。流石は、フェイトを家族に持っただけのことはある。
ゆっくりと慎重な手つきで指輪を恭也の手に渡すと、ユーノ並に緊張した足でその場を離れた。
そして、フラワーガールのリエラとルーテシアが、バージンロードに花を撒き始めた。
雪のようなバラが白き布の道を更に白く、美しく彩っていく。
「白いバラの花言葉はね、『純愛』なのよ」
桃子が昔を懐かしむように、美由希に語りかける。
姉は、なのはに先を越されて嬉しいやら何やら、実に複雑な顔をしていた。
一方、父の士郎は今この場にはいない。しかしもうすぐ見えるはずだ。
「それでは、新婦の入場です」
教会のドアが開き、なのはの姿が見えた。会場が一斉に振り向く。

「綺麗だ……」

ユーノはもう、それしか言うことなどなかった。言葉で括ることなど、絶対にできない。
純白にほんのり桜色の混じった、なのはらしいウェディングドレスを身にまとって、花嫁が入場してきた。
左腕を抱いているのは、父の士郎。すぐにユーノの元へと帰すであろうその腕を、しっかりと引いている。
バージンロードをゆっくりと歩くその表情は、未だヴェールに覆われている。
長く伸びた引き裾、トレーンを後ろから静かに持ち上げているのは、ヴィヴィオ。
出会ってから二年で、この子も成長したものだ。
なのはがどんな顔をしているのか、ユーノは楽しみだった。

祭壇の前に来て、ユーノとなのはは並んだ。
士郎が腕を解き、ユーノへと愛娘を託す。
「婚礼の合唱」の演奏から、奏者がピアノから膝へと指を置いた。
不思議に温かい沈黙の後、今度は「アヴェ・ヴェルム・コルプス」の演奏が始まった。
参列者の斉唱によって、教会全体が幻想的な空気に包まれる。
「...mortis in examine」
賛美歌が長いフェルマータを引いた後は、神父による聖書の朗読が始まった。
二人で生きていくことの試練と喜びを説き、ユーノとなのはは互いの結婚生活への抱負を述べた。
神父が頷いて祝福し、恭也へと目を向ける。
なのはの最も親しき兄は、その名の通りに恭しくリングピローを取り出し、ユーノへと差し出した。
キラリと光る、プラチナのリング。
なのはは肘まで覆う手袋を外して、フェイトへと預けた。
ユーノは指輪を取り上げ、なのはへと──と、ここで。

指が震えている。
指だけではない、身体全体がカタカタと鳴っている。
止まらない、止まってくれない。

「ユーノ君、大丈夫?」
小さくなのはが耳打ちしてくるが、とても反応できるような精神状態ではなかった。
緊張。その一言で済まされればどんなにいいか。
深呼吸をして、心を落ち着けようと懸命に挑むも、指輪がなのはの指に入らない。
「わっ、わわっ」
ピンッ! と、リングが跳ねた。空に踊るプラチナを、ユーノは慌てて受け止める。
「は、はぁ……」
一瞬、場全体に緊張が走ったようだった。しかしそれが薄れていくと、逆に心が平穏になっていった。
ゆっくりゆっくり、慎重に丁寧に花嫁の薬指に指輪を嵌めていく。
どこまでも滑らかなその手に、リングはスルリと収まった。
安堵の溜息を吐いて、ユーノは手を差し出す。
なのはからの指輪は、存外簡単に嵌められてしまった。
ふふっ、となのはの忍び笑い。ユーノは顔を赤らめながら、神父に向き直った。
神父は威厳に満ちた咳払いを一つすると、まずはユーノに宣誓を解いた。
「汝ユーノ・スクライアは、この女、高町なのはを妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、
病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、
愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」
「誓います」
唇がやたらと乾いているのを感じた。なのはも、同じように緊張しているのだろうか。
神父は続いて、なのはにも同じ文言を解く。
「汝高町なのはは、この男、ユーノ・スクライアを夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、
病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、
愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」
「誓います」
口調がはにかんでいたのは、決して気のせいではなかったのかもしれない。
だって、次の儀式が──

「それでは、誓いのキスを」

ついにこの瞬間がやってきてしまった。
人前でキスするとは……恥ずかしいってものじゃない。無理だ、と心中で挫けかけた。
けれど、なのはが被ったヴェールの向こうにどんな表情があるのか、確かめたくもなってきた。
ユーノは躊躇いがちに手を伸ばすと、薄桜の覆いに手を掛けた。
びくり、となのはに緊張が走る。
『ええい、ままよ!』
サッ……と、思い切ってヴェールを持ち上げた。
そこには、顔を真っ赤にし、ほんの少し潤んだ目をユーノに向けた、愛すべき人の瞳があった。
ドキリと心臓が高鳴って、口から出てきそうになる。
なのはの顔が目の前に迫ってきて、他には何も見えなくなって。

そっと、なのはが目を閉じた。小さく唇を突き出す。
ユーノは意を決した。これ以上沈黙が続いては、なのはに恥をかかせてしまう。
「ちゅ……」
両の頬に手を当てて、なのはに唇を寄せた。
僅かに口先だけが触れる、小さなキス。
唇を離した時の顔は、潤みを通り越して半分泣き顔だった。
「ユーノ君……」
「ん?」
花嫁のブーケを優しく包みながら、ユーノが問いかける。
なのはは溢れそうになる雫を堪えながら、一言ずつ言った。
「わたし、すっごく、幸せだよ……」
嬉し涙が一筋、なのはの頬を流れていった。
ユーノが涙の真珠をすくうと、なのはにその手を取られた。
「ねえ、抱きしめて、ユーノ君。わたしのことを絶対に離さないって、誓って」
ユーノはただ頷いて、なのはを思い切り抱きしめた。
決して離れることのない、永遠の抱擁。
「……っうあああああああああああああああああああん」
感極まって泣き出したスバルの声が、教会中に響いた。

春の穏やかな光の中で、ステンドグラスがキラキラと輝いていた。
二人の新たなる旅立ちをどこまでも祝福していくかのように、色とりどりの陽光が差し込んでいた。

***

「あはっ、あはははっ、それでこそ、ユーノだ。お前らしいや、ははっ」
「ユーノさーん、こっち向いてー!」
クロノがからかい、ティアが手を振る。
路上には衆目もある。なのはの両親だって──
「いやー、やっぱり家の娘だな。なのはらしい」
「なのはー、落っことさないでねー」
「大丈夫だよっ!」
──何も大丈夫じゃない。

今、ユーノはなのは『に』抱きかかえられて、教会の階段を降りていった。
どこまでも延びていきそうな、とても長いバージンロードを、なのはは一歩ずつ歩いていく。
「ユーノ君、顔ちょっと上げて」
「え、何?」
なのはの意図が分からず、取り敢えず素直に応じたユーノは、
「んっ……」
二度目のキスを受けた。
「みんな、来てくれてありがとう!!」
ユーノをその腕に抱えたまま、なのはは皆に向けて叫んだ。
「わたしと、ユーノ君は、ずっと、ずぅ〜っと、幸せになります!!」
ワァッ、と場が沸いた。はやてはしきりにシャッターを押すし、クロノはニヤニヤと二人を見つめるし。
「はっはっは、いいじゃないか。ところでなのは……いや、スクライア夫人。
プレゼントの準備が整ったのだが、大掛かりなものでね。もう開いてもいいかな」
『夫人』と呼ばれて、顔を赤らめるなのは。
コクリと首を縦に振ったのを合図として、クロノはエイミィへ向かって手を挙げた。
『アレ』とは、まさにこのこと。
「いっくよー!!」
提督の妻は、設置された砲台に火をつけた。程なくして、火薬の弾ける音が轟く。
「うわぁ……!」
「綺麗だね」
空に広がった花火は、昼間でも良く見えるように調整されていて、
そこには、二人の顔が並んで映っていた。
世界最高の、祝砲だ。

「でも、なのはの方がもっと綺麗だよ」
「もう、『あなた』ってば」
そのまばゆさにフェイトが卒倒したというのも、今では一つの笑い話になっている。
「さて」
広場と呼べる開けた場所までユーノを運ぶと、なのははその身体を降ろした。
ホッとした顔のユーノに微笑んで、なのははゆっくりとブーケを手に取る。
さっきまでは夫の手中にあったものだ。このギャップがまた、参列した全ての人を笑わせていたのだが。
「ブーケトス、いくよー!!」

ブーケトス。
それを受け取った人が、次に結婚できるといわれている、大きなイベント。
仲間内ではクロノ・エイミィ夫妻を除いてなのはが最速だから、これを受け取りたがる人間はかなりいる。
「私こそ!」
その中で唯一相当の気合が入っているのが、姉の美由希。
もう鬼気迫る勢いと言っていいかもしれない。
「それじゃ、投げるからねー」
なのはが後ろを向く。
緊張の一瞬。
「そーれっ!」
そして、ブーケが空に舞った。
「わっ、わっ、わっ」
高くに上がった花束を取ろうと、有象無象が乱れ飛ぶ。
激しいのは美由希とはやてだ。
押しのけ押しのけ、もうもみくちゃで何が何だかさっぱり分からない。

ふぁさ。

ブーケが、人の手に収まった。
小さくて、金色の髪がよく映える──
「ヴィヴィオ!?」
えへへ、と笑う聖王の両手には、確かにブーケが握られていた。
「次は、私が『けっこん』するの?」
無邪気にはやてと美由希を交互に見上げるヴィヴィオ。
その後がくりと二人がうなだれたのは言うまでもない。
「はやてお姉ちゃん、美由希おばさん、これ、欲しいの?」
あげるね、と差し出したヴィヴィオだったが、二人にとってその優しさはあまりにも痛すぎたのだった。

「『あなた』、愛してる」
「僕もだよ、なのは」

二人の脱力をよそにキスを交わす二人は、早速アツアツだった。

***

「えー、私となのはは昔からの友人で、良く喧嘩をしたこともあったけど、それ以上に大親友でした」
フェイトのスピーチはしどろもどろで、だがそれが却って微笑を呼ぶ。
「管理局に入ってからのなのははとても忙しくて、ユーノと中々会えない日々がずっと続いてて……ひくっ、
こうやって一緒になれたのが、友人として嬉しくて……うぅっ」
感涙に咽びながら読み上げていく。一同がしんみりしたところで、フェイトはスピーチを締め括った。
「なのは、ユーノを幸せにしてください。もしユーノを泣かせたら、私、承知しないから」

会場が爆笑の渦に包まれた。
「え? え!? 私何か変なこと言った?」
涙声から一転、面食らった顔で会場を見渡すフェイト。
残念なことに本人はまったく自覚がないのだった。

乾杯をして皆がシャンパンを飲み終った頃、タイミングよく司会のクロノがマイクを取った。
「さて、ウェディングケーキの入刀に移りたいと思います。夫婦初めての共同作業、撮影されたい方は前にどうぞ」
言う前から約一名がベストポジションに構えているのは、ある意味で必然か。
かなり多くの人数が殺到し、銀塩にデジカメ、携帯まで取り出される。
大きなケーキを二人のナイフで切った瞬間、フラッシュの嵐が咲き乱れた。
ユーノは切り出された一切れを更にフォークで小さくし、なのはに差し出す。
「なのはが食べるに困らないよう、一生懸命働くから。はい、あーん」
ぱく、となのはがユーノのフォークを口で受ける。また、シャッターとフラッシュの波。
「わたしも、あなたのために美味しいご飯たくさん作ってあげるね。あーん」
今度は、逆になのはがユーノにケーキを差し出す。
いつまで経っても、シャッター音は鳴り止まなかった。

そして、待ちに待ったお色直し。
どんな姿で登場するのかと誰もが見守っていたところ……
「よっしゃ、俺の勝ちだ」
「あぁっ、畜生! 大穴に注ぎ込むんじゃなかった!!」
案の定というべきか、ユーノがウェディングドレスを着て現れた。
トレーンは短く、歩きやすい仕様になっている。
一方のなのははタキシード。キリッと整った男装は、どこかの令嬢をも思わせた。
はやてのリクエストに応えてお姫様抱っこをするなのはの凛々しい格好が、
少女を思わせるユーノの表情とも相まって絶賛された。

***

「ま、今夜ばっかりは誰も何も邪魔せえへんから、ゆっくり楽しんだってな」
「私も応援してるよ、なのは」
披露宴が終った後、大親友の四人が話しかけてきた。
「なのはちゃん、頑張ってね」
「なのは、幸せになりなさいよ。ホント、ユーノを泣かせたらぶっとばすわよ」
なのはは多くの友人に祝福されながら、今までのことを思い返していた。
星の降る、クリスマスの夜に告白したこと。
その場の勢いではなく、10年以上ずっと胸で熱く燃えていた想いを口にした時の、なんと甘い一瞬だったことか。
心のときめく数ヶ月、ようやく結婚式を挙げることができた。
旅立ちの日。永久に安らげる、誇れる胸。
それが今、目の前にいる。
「それじゃ、わたし、行くね」
なのはは名残惜しく親友たちに手を振ると、ユーノの元へ駆けていった。

「あなた、おまたせ」
こちらもこちらで、夫はクロノと談笑していた。
何事かをクロノは呟き、小さな箱をユーノに渡して、大笑いと共に去っていった。
「あぁ、なのは。これ見てくれよ……」
苦笑の元にユーノが開けたのは、今しがたクロノが渡した箱。
中には、裁縫針が2、3本。
「要するに、これで破れってことらしい。あぁ、何というか、その……」
言いよどむユーノになのははクスリとする。
何に針で穴を開けるのか、そんなのは自明だ。
「ねえ、あなた」
なのはがユーノの腕を掴む。
「針なんて『いらない』でしょう?」
ウィンクして、掴んだ腕を絡めた。
「わたし、最初は男の子が欲しいな」
「奇遇だね、僕もそう思ってたんだ」
照れ隠しか、妙にキリッとした顔で答えるユーノ。
それが可愛くて、なのははその頬にそっとキスを寄せた。

風が南へ吹いていた。それは二人の間をすり抜けて、遠く海まで流れていった。
まるで、この星までもが祝福しているかのようだった。
ユーノが肩を抱く。
なのはは身体を預けて、旅路へと歩き出した。
未来へ、虹色に煌き輝く世界へと。


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