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※当SSはキャラクターが全体的に崩壊しています。特に聖王陛下。
気にしない方だけ先にお進み下さい。

***

その日、時空管理局は某会議室にて、二人の女が対峙していた。
一人は少女と呼べるような年頃の女の子。金髪を左側だけ引っ詰め、右に翠、左に紅の特徴的な虹彩を持っている。
もう一人は×印の髪飾りをつけた、20代前半程度の女性。
ショートカットにした髪はやや脱色されており、その額にはうっすらと汗がにじみ出ていた。
「これ、ママの部屋で見かけたんですけど、確かはやてさんの持ってたカメラのメモリーと同じタイプですよね?」
ひらひらと小さくて薄いディスクを揺らして、少女は微笑む。
そこには子供の無邪気さといたずらっぽさ、そしてそのどちらでもない何かが同時に染み出していた。

「ヴィヴィオ〜? それは子供が触ったらあかんのやで? さぁ早く返し」
方言の多分に混じった言葉で、はやてはヴィヴィオを説得する。
だが、少女は素知らぬ顔でくるりと振り返り、ドアへ向かって歩き出す。
「そうですねぇ、そんなに危ないならママに渡さないとですね」
「あぁ止めてー! 何でも言うこと聞いたげるからそれだけは堪忍やー!」
そこで初めて、ヴィヴィオはまともにはやての顔を見た。
ディスクを手の中で転がしながら、「どうしましょうかねぇ……?」ととぼけてみせる。
コトの始まりは数日前。

たまたま掃除に入ったなのはの部屋で、窓際に妙なディスクが落ちているのを見つけたのが始まりだった。
拾いあげてみると、何だかいつも使っているカメラとは違うディスク。
一体誰のものだろうと、拾いあげて端末で検索をかけてみた。
中にあったのは、まぁなのはの部屋にあっただけあってなのはの──母親の写真だった。
但し、少女が見るには少々刺激の強すぎる写真だったが。
どの一枚も、ユーノと仲良く、それもアグレッシヴな仲良しの様子を収めていた。
当然のごとく、カメラ目線でもないし、第三者の撮った位置関係だった。
日付を見る限り、誰かが遊びに来ていた事実はないし、外部犯であればいくらなんでも間抜けすぎる逃走っぷりだ。
「なるほど……でも、だとすると犯人は……」
このメモリーカード一枚から判定できる容疑者は一人。
早速突き出して、『少し頭を冷やしてもらう』という選択肢もあったが、ヴィヴィオはもう一つのアイディアに走ることにした。

データを全部一旦端末に移し、その足で八神家へと向かう。
そして今、はやては中身が空っぽのメモリーカードにあたふたしていたのだった。
「そういえば、クラナガンの遊園地に新しいアトラクションが入ったみたいですね。
リオとかコロナと『一緒に行こうね』って言ってたんですけど、ちょっとママが緊縮財政で……」
「ほ、ほぉ、そかそか、せやったらはやてちゃんが大盤振る舞いして三人まとめて連れていったるわ。
だ、だからな、そのカードをこっちにちょうだいな、ヴィヴィオ? ね、いい子やから」
空のディスクなのに、カマをかけたらあっという間に取引してくれた。
中身を見た時点で既に弱みは握ったも同然だが、それにしてもよっぽどなのはの『お話』が怖いのだろうか。
両親に対して後ろめたいことをやっているのはとっくに気づいていたが。
「でも、遊園地に着ていく服もないんですよね。また今度にして今日は帰りますね?」
「ま、待って! 買いに行こか、ヴィヴィオの新しい服。ウチにはぎょうさん女の子がおるし、一番可愛いのを見繕うで!」
ここまで来ればもう一押し。
むしろ逆に引けば、相手はコロンと向こうから転がってきてくれる。
ヴィヴィオは逡巡するように人差し指を宙に彷徨わせると、踵を返してドアに手をかけた。
「でも、やっぱり悪いですし、今日は私帰りますね。ママとの間に秘密を持つのも──何だかイヤだし」
「ま……待って!」
はやてが縋りつくようにヴィヴィオの袖を掴んだ。
ニヤリと笑ったヴィヴィオが振り返ると、今にも捨てられそうな子犬のはやてが、うるうるした瞳で少女を見上げていた。
「頼むで……お願い、後生や。それをなのはちゃんに……ヴィヴィオのママに渡すのだけは堪忍したってや」
「えぇ、でも……」
もう折れる頃だろう。そう思った時にはもう、はやての声は半分涙がかっていた。
押し倒さんばかりに制服を握りしめてきて、頭を何度も下げる。
「堪忍してやぁ……あのフィルムが出回ってることがバレたら、私なのはちゃんに粛清されてまう……
何でも買うてあげるから、それだけは止めてちょうだい……止めて下さい、お願いします……」
堕ちた。年下で力もない人間にここまで縋るなら、もうはやては手中に収めたも同然。
これからも困った時には頼ることにしよう。
「仕方ないですね、でも今度だけですよ?」
ニッコリと笑って、今にも泣き出しそうなはやての身体を抱きしめた。
ホッと一息つけた様子の彼女はまだ震えていて、よっぽどなのはのスターライトブレイカーが怖いと見える。
「ヴィヴィオってホンマ、ママによぅ似てるわ。でも頭冷やされないだけマシやね……」
「うん!」
そんなことはしない。あくまで平和に行くのだ。平和に。
ヴィヴィオははやての肩をぽんぽんと叩いている間も、天使のような笑みを崩すことはなかった。
「じゃ、週末お買い物行こうね、はやてさん。私もはやてさんの服、凄く可愛くてカッコいいの見繕うから!」

(了)

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