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「ただ今帰ったぞ」
「あら、おかえりなさい」

道場から帰ってきたシグナムを、シャマルは優しく迎え入れた。
水が一杯欲しいという烈火の騎士に、彼女はいそいそと差し出す。
「はい」
「ああ、ありがとう」

喉を鳴らして飲み干す。あっという間にコップの中は空になり、シグナムはお代りをしようとした。
──が、異変はそこで起きた。
「うっ……」
「どうしたの?」
シグナムの額に嫌な汗が浮かぶ。急に腹を押さえて、よろよろと歩き出した。
やっとの思いでトイレに辿り着くと、がちゃがちゃとシグナムらしくない手さばきでドアを開け、中に入っていった。
その後、中から聞こえるのは呻き声だけ。シャマルは心配より先に不審を心に抱いて、ドアをノックした。
「ちょ、ちょっと、大丈夫なの、シグナム?」
「すまん、シャマル……今、話しかけないでくれ……」
それっきり、シグナムの反応はなくなった。
「                             」(※ただいま音声を消してお送りしております)

***

「……どう考えてもおめーの水が原因じゃねーか。どんだけ微妙な水だったんだよ」
「だって、だってぇ」

それから丸一晩、シグナムは出てこなかった。
リビングでははやて、ヴィータ、ザフィーラがシャマルを取り囲み、家族会議を始めていた。
「取り敢えず、あれだ」
ヴィータは小物棚からビニールテープを一つ取り出すと、キッチンの入り口に思い切りべたっと貼り付けた。
そのまま伸ばして、キッチンを非常線で覆う。
「お前、ここから中に入るなよ。もう死人が出てんだ、お前に料理は任せらんねえ」
「いやな、ヴィータ、真に迫るのは結構やけど、シグナムまだ死んでおらへんから」

ザフィーラは腕を組んだまま、黙って風の癒し手を見つめていた。
そこには憐憫と諦観だけがあって、シャマルは自分の腕を改めて呪った。
「っていうか、水一杯入れてきただけでどうしてこうなるんだよ」
「私が聞きたいわよ……」
「せや。普通なら誰一人トイレに篭るようなことは起きへんはずなんや」
「はやてちゃんまで……」

その日以来、シャマルはキッチンに無期限立ち入り禁止を宣告されたのだった。

(了)

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