「真琴ーッ! 俺だーッ! 結婚してくれー!」
「何よその出オチ。あんたバカぁ?」
「いや、どうしても心の叫びをお前に届けたくてな」
「っていうかこんな売れない漫才コンビみたいな真似してどうするのよぅ」
クリスマスパーティーをやろうという意見に、水瀬家の家主は一発で「了承」を出した。
むしろ、提案している途中で言われた。
「これが婚約のプレゼントだ」
「肉まんじゃない! あんた一体どこまであたしをからかえば気が済むのよ!!」
「ん、肉まんいらんのか。じゃあ俺が食うぞ」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。何も要らないなんて言ってないじゃない」
パーティー後、秘策のネタで真琴を釣ってみた。
見事な大漁である。
ただ一つの誤算があるとすれば、机の上に婚姻届を置きっぱなしにしてしまったことなのだが。
「もぐっ、大体あんたはね、んぐっ、あたしを何だと思ってるのよ、あむっ」
「こらこら、食いながら文句言うな。文句を言うなら食い終ったら言うんだ」
「ごちそうさま!」
真琴にそっぽを向かれてしまった。
日頃の悪戯にお返しをするチャンスがあるとすれば、今しかない。
電光石火の速度で真琴の後ろに回り込むと、その胸を思い切り鷲掴みにした。
「いやぁーっ!!」
「はっはっは、どうだ、イタズラされる方の気持ちが分かったか」
とか言いつつ揉んでみたら、想像を絶するほど柔らかかった。
服の上からこれだから、服の下だったら……
思わぬ伏兵に、生唾を飲み込む。が、その一瞬に油断したのがいけなかった。
「バカー!!」
「あべしっ!?」
強烈な頭突きが鼻にクリーンヒットした。
うずくまり、痛みに悶えて転がるが、真琴の反応は冷ややかだった。
「一生そこに転がってなさい」
「うぼぉー、まってくれ、まことー」
「待たない!!」
真っ赤に顔を染めた真琴が、のしのしと部屋を出て行った。
冗談で用意した婚姻届を見られずに済んだことだけが、不幸中の幸いか。
それにしても、柔らかかった。
悪戯の仕返しには、次から採用しよう。
(了)