「そういえば、昨日セインが覇王っ子がどうだとか言ってたんですが、覇王というのはあの覇王のコトですか?」
綺麗な晴れ間と心地よい風。なにをするにもうってつけの陽気の中、イクスとセインは教会のキッチンにいた。
エプロンと三角巾を身につけ、目の前には卵やバターといった、スコーン作りの材料が一式並んでいた。
「スバルさんに美味しいスコーンを作ってみせます」
「美味しく作るのも大事ですけど怪我にも気をつけてね」
気合十分のイクスを一歩引いたところから見守るセイン。
本当ならセインも一緒にはしゃぎたいところだが、今回のセインはあくまで黒子。
イクスの手伝いであり、怪我をしないよう気を配るのが仕事である。
「はい! それじゃあシスターセイン、よろしくお願いします」
イクスがぺこりと頭を下げる。こうしてイクスの初めてのスコーン作りが始まった。
セインがボールを取り出し、手際よく薄力粉や砂糖を入れていく。
「細かい分量はまだイクス陛下には難しいので私がやりますね。イクス陛下はこれを手で混ぜてください」
「はい!」
セインの指示を受け、イクスはボールの中身を混ぜ始める。初めて触る薄力粉の感触に夢中になっていった。
「シスターセイン、これさらさらで気持ちいですね」
イクスは尚もボールの中をかき混ぜる。その表情には早くも笑みが現れていた。
「イクス陛下、そろそろ混ぜるのは一旦止めてバターを入れた方がいいよ」
そう言って、セインは冷蔵庫から少量のバターを出して、イクスに差し出した。
「これ全部入れていいのですか?」
「はい、全部豪快に入れちゃっていいよ」
「分かりました、えいっ!」
少量のバターで豪快も何もないが、イクスはセインの言葉を受け、ボールにバターを投入した。
重力で加速したバター達がボールに落下し、その勢いでボールの中身が宙を舞った。
「けほっけほっ……」
「イクス陛下大丈夫?」
咽るイクスを見て、すぐにセインが駆け寄るが、エプロンが白くなった程度でイクスはなんともないようだった。
「はい、ちょっと驚きましたが大丈夫ですよ。シスターセイン、この後はどうすればいいですか?」
しかし当のイクスは何処吹く風。美味しいスコーンを完成させることで頭が一杯のようだ。
「それじゃあ次はこれを混ぜるてね。バターをつぶしながら混ぜるのがポイントだよ」
「少し難しそうですね、でもやってみます」
イクスが再びボールに向かっていった。
だが行程自体はバターが加わった以外は先ほどと大差ないため簡単にこなした。
頃合を見計らってセインがイクスに声をかける。
「イクス陛下、そろそろ次の段階に進もうよ」
そう言ってセインは軽量カップに入った卵牛乳を持ってきた。
「次は何をすればいいですか?」
イクスは早く続きをやりたいとばかりにセインをせっつく。
「まずはボールの中身を端っこに寄せてね。そしたら真ん中に卵牛乳を入れてそれと混ぜる。それがスコーンの生地になるんだよ」
「どんどん完成に近づいていきますね」
満面の笑顔でイクスが答え、卵牛乳と粉を混ぜていく。少しずつ完成が見えてきて俄然やる気も増してきたようだ。
「うんしょ……うんしょ……」
イクスが精一杯に混ぜ合わせていく。
体が心地よい疲労感を覚える頃にはボールの中身は一つになり、生地の原型が出来上がっていた。



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