「……」
「えーっと、晩ご飯の材料はこれで全部っと」
 そわそわ。
 うろうろ。
「んーーっ」
「布団も干したし、お風呂もきれいに洗ったと」
 そわそわそわ。
 うろうろうろ。
「んんーーーっ」
「そろそろヴィヴィオ達、来る頃かな?」
 そわそわそわそわ。
 うろうろうろうろ。
「んんんーーーーっ!」
「って、少し落ち着いてイクス」
「ご、ごめんなさいスバル」
 さっきからリビングの真ん中を落ち着かないといった様子でうろうろしている、同居人の幼い少女を、この家の家主であるあたしことスバル・ナカジマがたしなめる。
 傍目にも、彼女――イクス――が緊張しているのがよく解る……というか、解りやす過ぎる。
「初めてだから緊張するのは解りますけど、そんなに力まなくてもいいんですよ」
「は、はい……」
「ねえイクス、今どんな気持ちですか?」
「はい。すごくドキドキしています」
「ドキドキしますね。あたしもそうでしたから」
「スバルもですか?」
「はい。小さい時はよく友達のお泊り会に参加してました。 すごく楽しかったですよ。 みんなで晩ご飯を作るのは楽しいですし、それを食べるのもまた楽しくて美味しいし……」
「ふふ、スバルは本当に食いしん坊ですね」
「あはは……あ、あと不思議な事に普段話せない様な事もみんなで同じ布団の中に入ると自然に話せるんですよ」
「同じ布団の中……一緒に……」
「そうですよ、例えば内緒の話とか……ってあれ?」
「ヴィヴィオと……一緒……」
「もしもーし、イクスーーっ?」
『同じ布団の中で一緒に寝る』という言葉に過敏に反応したイクスは、これから訪れる友達との甘い一夜を想像したみたいで、一気にイケナイ妄想モードへと突入してしまった。
 まあ、見た目は小っちゃい子供だけど、彼女自身の出自から実年齢は多分相当な歳みたいだから、ソッチ方面の知識を持っていてもおかしくはない……と思うんだけどね。多分。
「イクスー、帰って来てくださーい!」
「……はっ! ご、ごめんなさいスバル! つい……」
「まあ、あとは実際に体験してからのお楽しみ。 きっと楽しい一夜になりますよ」
「はい。 楽しみにしています」
 話が一区切り付いたところで、あたしは壁掛け時計に目を移す。
「そろそろヴィヴィオ達、来る頃かな……」
 そう呟いたまさにその時。
 ――ピンポーン――
「来たみたいですよ、スバル」
 来客を告げるチャイムがリビングに響き渡る。
「ごめんくださーーいっ!」
「はーい。待っててーー!」
 玄関の向こうから聞こえる声だけで来訪者の正体を悟ったあたしは、イクスと一緒に玄関に向かいロックを解除しドアを開けた。



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