「イクス〜、あっ、失礼しまーす」
部屋に入ってくる途中で思い出したようにあいさつをするシスター。
のこのことゆる〜くイクスのベッドの脇に置いてあった椅子に腰掛けて脇に持っていたポットと洗面器をもうひとつのイスの上に置く。
洗面器の中にはタオルにシャンプーにアヒルのおもちゃ。
わかりやすいお風呂セットである。
「あ、今日はいらないもの持ってきちゃったな……」
そう言って洗面器からシャンプーのボトルを床に下ろす。
シャンプーは今度だったということらしい。
お湯の入ったポットとタオルと洗面器とタオルとアヒルのおもちゃはいるということだ。
「今日は体を洗う日だから、イクスの服も着替える日、と。それにしても、なんでスバルと追っかけっこしてたんだろ。
 しかも止める役目あたしだったし、普通なら逆じゃんか〜」
のろのろと入ってきたときとはまた一風違う挙動でダルさアピールをしながら洋服が入っているタンス、
もといクローゼットをあさって洋服をとりだしてくる。
「んー、やっぱり、イクスって言ったらこっちだよね〜」
引っ張り出したふりふりのついた洋服をたたんで元に戻し、中華風の服を持ちだした。もちろん、丈はとても短い。
服選びはすべてこのセインが行っていたことなのだ。
そしてその服を持ってベッドに戻ってイクスを抱き起こし、うまく背中に回って抱きかかえる。
こうなればポジションは完成。
「さぁーって、お着替えしましょうか〜」
新しく着る服はベッドの上に置いて、しっかりと滑って行かないようにイクスを後ろから支える。
なるべく重心のずれをなくしたいために体を密着させながら前についたボタンを外していく。
「ん、うーん、見えないなぁ……」
脇の下から伸ばした手だけでは感覚がどうにもつかめず、さらにもっと密着しようと体を合わせていく。
結果的には普通に座るイクスの肩に頭を乗せるくらいに近くなった。
こうすればボタンの様子も見える。
しかし、イクスの髪がくすぐったい。
気を取り直してボタンに手をかける。
このぼたんは普通の円状ではなく、横に長く円柱のような形に変形している。
それを小さいわっかの方に、しかもすでにくぐっているものに通すというのはなかなか難しい仕事なのだが、
今は肩越しにボタンの様子を見て作業ができるのでずいぶんと楽だ。
上からぷち、ぷち、とひとつずつ外されていく。
実を言えばあとはファスナーで固定することになってるからここさえ過ぎれば問題ない。
じゅい〜と金属同士がぶつかり合って立てる、低めの音が二人しかいない部屋の中に響く。
「このシチュエーション、結構恥ずかしいよね……」
少しいたずらにふーっと耳に息を吹きかけると、イクスは体を預けながら、小さく身じろぎをした。
ちょっと、罪悪感。
気を取り直して服を脱がせる作業に移る。
「お、おぉー……成長しないなぁ……」
上からのぞき見る限り、セインの目にはあまり変わりないように映る。それはそうだ。
二日に一回は見ているのだから、微妙な変化があったとしても早々気づかないだろう。
そこでふと、肩越しにさくら色の小さなつぼみを眺めていたセインにひらめきがはしった。
「なるほど、写真に収めればいいのか!」
幸い自分の指はヘリスコープ・アイ。
指の先に自分専用のカメラがあると考えていい。
早速試してみようと腕を伸ばして正面からのアングルで見てみる。
「……」
指の先から見たカメラでは、確実に自分が犯罪者にしか見えなくなっていた。



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