耳に流れこんでくる波の音に、スバルが瞼を開く。
「あれ?あたし……?」
スバルの目に飛び込んできたのは、真っ白な砂浜と、空の色を反射して青く輝く海。
「どうしたんですか?スバル」
と、自分のすぐ横から声がして、スバルは驚いてそちらを振り向いた。
決して忘れることの出来ない声。聞くことが出来たのはほんのわずかな時間だったが、その声音はスバルの耳の奥に、今でもしっかりと残っていた。
「え……イ、クス?」
「もう、スバルったら。ぼうっとして」
うふふ、とイクスが笑う。
「さ、スバル。行きましょう。私、一度この砂浜を、思いっきり走ってみたかったんです」
スバルの手をとって、イクスがかけ出す。
「え、ま、まって、待ってくださいイクス!」
「待てません!」
楽しそうに笑いながらまっすぐに駆けていくイクスの後ろ姿に、スバルはなんとなく理解することが出来た。
ああ、これは夢なんだな、と。
きっと、神様が夢の中で、イクスに会わせてくれたのだと。
それなら、精一杯、イクスを楽しませてあげなければ。
「イクス、そんなに走ると転びますよ!」
「大丈夫ですよ!ほら、スバルも早く!」
こちらを振り返るイクスの笑顔は、まるで夏の花のように明るく輝いているように、スバルには見えた。
それから、波遊びをしたり、砂浜に転がって空を見上げたり。
楽しい時間はあっという間に過ぎる。
それはどうやら夢の中でも同じのようで、ふと気づいたときは、いつの間にか太陽は水平線にさしかかり、日暮れの濃い朱色の光が世界を染め上げていた。
「ね、スバル」
二人、砂浜に腰をおろして、遠くに沈んでいく夕日を眺めていたイクスが、スバルに声をかけた。
「はい、イクス」
スバルが答える。イクスは身体ごとスバルに向き直ると、スバルの顔を覗き込んで言った。
「王子様のキス、ありがとうございました」
その言葉にスバルは一瞬きょとん、としたあと、思い出したようにあはは、と笑って視線を逸らす。
「もしかしたら、って思ったんですけど、でもやっぱりあたしじゃ王子様にはなれなかったみたいで」
だめですよね、と少し寂しそうにつぶやいたスバルに、イクスが笑みを浮かべる。
「いいえ、そんなことはありません。スバルのキス、ちゃんと、届きましたよ」
「え?」
顔を上げるスバル。その不意をつくようにして、イクスがスバルの唇に自分の唇を重ねた。
「んんっ……!」
その勢いで、スバルが地面に押し倒される。
その上に覆いかぶさるようにして、イクスはスバルの上に乗った。
「ん……んぁっ」
ぴちゃ、と音をたてて、イクスの舌先が、スバルの口内に入ってくる。
「ふぁ……あん、あっ……」
イクスの舌がスバルの舌先に絡みつく、その痺れるような刺激に、スバルの身体から力が抜けていく。
ぴちゃ、ぴちゃ。
自分の口の中が、イクスの舌に犯されていくような感覚に、スバルは身体の芯が熱くなっていくのを感じていた。
「ふぁ……や、イ、イクス……」
ようやくイクスが唇を離す。二人の間に結ばれた唾液の糸を舐めとって、イクスが妖艶な笑みを浮かべた。



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